HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 筋肉の時代が来た

小谷鷹哉

image646_04_4.jpg 二〇二三年四月に大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系の助教に着任しました小谷鷹哉(こたに たかや)と申します。専門は身体運動科学で、骨格筋のサイズの変化を中心に研究しています。二〇二〇年三月に駒場キャンパスで博士号を取得したので、三年ぶりの駒場となります。三月までは日本体育大学の助教をしていました。
 私は筋肉(専門的には骨格筋と呼ばれる)を研究している。高校生の時、勉強したいものが特になかったので、「身体は人間全員が死ぬまで向き合っていくものだから、身体のことを勉強すれば絶対損をしない」と思い、身近で身体に詳しかった保健体育の教員を目指すことにした。高校の保健体育の先生の多くが日本体育大学出身だったので、私も日体大に進学した。大学では、教員の勉強に加えて、身体に詳しくなるためスポーツトレーナーの勉強や国家資格である柔道整復師の専門学校の夜間部にも入学して勉強に励んだ。その中で、人間が健康な生活を営む上で筋肉が重要であることを学んだ。特に、筋肉は筋トレをすれば大きくなり、やめれば小さくなる、と状況に応じてサイズが容易に変化することにおもしろさを感じた。しかし、当時の日本ではトレーニングジムはほとんどなく、筋トレを習慣的に行っているのは少数であった。プロテインを飲んでいる友人のあだ名はマッチョで、変わり者のような扱いをされていた。しかし私は、「日本にも筋肉の時代が必ず来る!」という特に根拠はない自信と好奇心を抱き、筋肉の専門家になることを志した。大学院入試の勉強に励み、当時駒場キャンパスにあった筋肉の研究で有名な石井直方先生(東京大学 名誉教授)の研究室に入ることができた。しかし、私の周囲の多くの人から、大学院なんかに行って何になるんだ、筋肉の研究なんか意味あるのか、筋トレは娯楽だ、などと否定的な意見をいただいた。それでも私は自分の好奇心に向き合い、大学院に進学し筋肉の研究に励んだ。
 そして、ついに、筋肉の時代が来た。テレビではボディビルダーが出演し、研究室の先輩である谷本道哉先生が指導するNHK「みんなで筋肉体操」がブームとなり、24時間営業のジムがたくさんでき、コンビニでもプロテインが販売され多くの人々が飲んでいる。そして、多くの人に筋トレの質問をされるようになった。今私は、自分の好奇心に向き合い、信じた道を突き進んで良かったと心から思っている。もちろん自分の選んだ道が正しいかどうかはわからないが、それは進んでみないとわからない。人生は一度きり、自分の好奇心を大切に、進みたい道を進むべきだと私は思う。
 この筋肉ブームをブームで終わらせないよう、歯の質の維持のために歯磨きをするように、身体の質の維持のために筋トレが習慣化されるよう、研究で得られた成果を積極的に社会に、東京大学の学生に、発信していきたい。ちなみに、現在はブラジリアン柔術という格闘技にハマっている(写真は大会で優勝した時)。これもブームが来ると予想している。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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