HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 二十二年ぶりの駒場で

葉廣和夫

image646_05_2.jpg 二〇二三年四月一日付で数理科学研究科に着任いたしました。岡山県の高校を卒業した後、東京大学に進みました。入学当時は数学と物理学に興味がありましたが、結局、理学部数学科に進学しました。現在は理学部数学科の学生は駒場で学びますが、当時は本郷に通っていました。一九九二年に大学院数理科学研究科が発足すると同時にその修士課程に進学したということになると思います。数理科学研究科棟が完成したのはそれより後で、しばらくは引き続き本郷に行っていました。一九九七年に学位を取得し、学振特別研究員などとして数理科学研究科で研究に従事した後、京都大学に二十年余り在籍して、この四月に数理科学研究科のある駒場に戻ったということになります。かなり長い間、駒場から離れていましたが、数理科学研究科への出張の折に駒場キャンパスを訪れるたびに、懐かしさを感じ、またキャンパスの風景の変化を感じていました。学生だった頃にサークル活動をしていた駒場寮や駒場小劇場などはすでにありません。一方で、銀杏並木は変わらずそこにあって、以前よりも木が育ったせいか、より立派になった印象を持っています。
 話は変わりますが、最近の世の中の動きで大学教員にとって大きな意味をもちうることの一つに、ChatGPTをはじめとした大規模言語モデルがあると思います。一数学者としては、今後このようなAIを数学の研究にどのように役立てることができるようになるのかに興味があります。現状では、大規模言語モデル単独では計算や論理的推論を正確に行うことはできないようですが、計算機ですでに可能なことと組み合わせて、この点を改善できるようになるでしょうか。大規模言語モデルと数学者が対話して考え出した予想と証明のアイデアを自動定理証明で検証し、検証したものを大規模言語モデルに投入して知識を再生産していくといったような手法が、これから発展していくのでしょうか。数学のアイデアや直観は言語だけに帰着できるものではないとすれば、大規模言語モデルは数学者の研究活動をそのまま完全に置き換えることはできないでしょう。しかし、例えば空間的な直観を計算機で扱うにはどのような手法がありうるでしょうか。AIによる画像生成も最近急速に発展しているようですが、このようなものをさらに発展させて2次元、3次元、さらに高次元の空間理解ができるようになるでしょうか。あるいは、ロボット掃除機、産業用ロボット、自動運転車などが持っているある種の空間理解を発展させて、数学の研究に役立てることができるようになるのでしょうか。AIの発展が社会に変革を迫るものであるとすれば、数学研究にも同様に変化の波が押し寄せてくることは避けられないように思います。とはいえ、私についていえば当面はこれまで通りの研究を続けていくことに変わりはありません。ChatGPTに聞いても「数学の研究においては、数学者自身のアイデアや直感が重要な役割を果たします」とのことです。

(数理科学研究科)

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