HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 新しい世界

高木隆司

image646_05_3.jpg 二〇二三年四月に、広域科学専攻相関基礎科学系に着任いたしました、高木隆司です。よろしくお願いいたします。研究の専門は量子情報理論です。量子情報理論は、名前が表す通り量子力学と情報理論の融合分野であり、それぞれが洞察を与え合い相互に発展していくことが醍醐味です。例えば「量子」から「情報」の働きかけとして、量子力学効果をうまく使うことで、情報処理をより効率的にできないかというアイデアがあります。代表例が量子計算で、量子計算を遂行できる量子コンピュータの実現に向けた研究が、今世界的に盛り上がりを見せています。一方で、「情報」が「量子」の側に洞察を与えることもできます。二〇二二年のノーベル物理学賞は量子エンタングルメントに関する研究に贈られましたが、量子エンタングルメントを定量的に扱うためには、情報理論で導入される情報尺度を量子力学に拡張したものが本質的な役割を担うことが分かっています。私の研究は、特にこの「情報」→「量子」の視点から、量子エンタングルメントをはじめとする量子的特徴量を定量的に定式化し、それらが背後にある量子系の振る舞いや、それらをリソースとする量子情報処理の究極的な性能を解析することを目指しています。この様な量子情報理論の基礎的な研究が、最終的に量子計算や量子通信などの応用技術だけでなく、物性物理や素粒子物理など物理学の諸分野にも新たな視点を与えられるのではないかと期待しています。
 量子情報科学は物理学、情報科学、計算科学、数学など多くの分野に関連した極めて学際的な分野であり、この多様性の高さに惹かれて興味を持ち始めたことを覚えています。研究分野にとどまらず、自分の知らない多様な新しい世界に触れるのは常に魅力的で、その興味に身を任せて来ました。例えば学部三年生の時に一年東大を休学してカナダの大学とドイツの研究所を訪問してみたり、アメリカの大学院に進学してみたり、途中でイギリスに武者修行に行ってみたり、シンガポールでポスドクをやってみたりしてきましたが、それらはそれぞれ独自の経験、刺激、そして交友関係を与えてくれました。思えばそのような経験は、学部で駒場に通っていた頃から始まっていた気がします。駒場には個性豊かな学生と教員の方々に出会える環境があり、それは自分の興味の赴くままに学問(及びサークル活動)に向き合う喜びを教えてくれました。量子力学に出会ったのも駒場で、当時受講した清水明さんの量子力学の講義がとても興味深く、そこから深みにはまって今に至ります。その様な原点にこの度帰ってくることが出来たことを嬉しく思うとともに、「教員としての駒場」という自分にとってまた全く新しい世界に飛び込むことに大きな刺激を感じています。教員として、学生の皆さんにとっての新しい世界を提供できる様、精進していく所存です。

(相関基礎科学/物理)

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