HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

「共創」を学ぶ 教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」とブランドデザインコンテスト「BranCo!」

宮澤正憲

 「正解のない問いに、共に挑む」というコンセプトを掲げる授業「ブランドデザインスタジオ」は、二〇一一年からはじまりました。「恋愛」「散歩」「手ざわり」「ご近所」「遊び」といった学期ごとに設定されるテーマについて、学生たちがチームに分かれて独自の調査を設計して情報を集め(インプット)、本質的な課題や現代ならではの機会を見出し(コンセプト)、それに対する具体的な商品やサービスのアイデアまでを考える(アウトプット)という、「共創」のプロセスを体験し学ぶアクティブラーニング型の授業です。負荷の大きい授業ですが、多くの学生たちに参加していただき、教育プログラムとしてグッドデザイン賞を受賞するなど学内外から高い評価をいただいています。
 特徴の一つは、東大教員と共にこの授業を設計・運営しているのが、株式会社博報堂で様々な企業のブランディングやイノベーションの支援をしている現役のビジネスパーソンであることです。ビジネス現場で使われている先端的な生活者リサーチやアイデア発想、共創のメソッドが活用されています。また、集まる学生も理系・文系・学年など幅広く、博報堂のクリエイターやプロダクトデザイナーなどを含めて多様な属性や価値観を持った人々と協働することも他にはない授業の特徴となっています。社会に出てから重要となる共創の難しさと面白さを早くから体験することは、意義のある"early exposure"となると考えています。
 ブランドデザインスタジオの存在を知った他大学の学生から受講の希望が多くあがったこともあり、二〇一二年からはこの授業の拡大企画として、大学横断のブランドデザインコンテスト「BranCo!」も開始しました。レクチャーやメンター制度などを通じて学習の機会をサポートしつつ、三〜六名の学生が一チームとなってテーマに向き合い、インプット〜コンセプト〜アウトプットの総合力を競い合うコンテストです。これまで一五〇を超える大学から延べ七、三七〇名もの学生が参加してくださっており、勝ち残ったチームによる最終プレゼンでは毎回非常に興味深い示唆や魅力的なアイデアが提示されています。
 学生が参加可能なビジネスコンテストは多数存在しますが、BranCo!の魅力は「テーマの抽象性」と「その解釈の自由度」にあります。あらかじめ決められた商材や事業領域のアイデアを考えるのではなく、「自由」「普通」「秘密」「笑い」といった概念をテーマにして向き合うとき、その広がりの大きさゆえに、多くの学生たちはまず自分自身の人生や経験を振り返りメンバーと語り合うことから思考を始めます。その後に既存の調査や研究をあたり独自の調査を実施していくのですが、一人の人間のテーマにまつわる具体的な経験や心の動きを大切な手がかりにして新たなアイデアを生み出す「生活者発想」を大事にして進めています。
 「幸せ」を共通テーマとして、ブランドデザインスタジオとBranCo!を連動実施した昨年度は、教養学部に在籍する先生方にもご協力をいただき、文化人類学・開発経済学・哲学・文学・身体運動科学・進化生態学といった各学問領域の視点から「幸せ」を語っていただき、共通のインプットにする試みも行いました。アカデミアのなかで蓄積された知の幅広さと深みを感じるとともに、そうした教養学部の知と学生たちが行なった生活者調査(たとえば、「棒人間の周りに自由に絵を描いてもらい幸せにしてもらう調査」「期間中スマホを通して幸せを感じた瞬間を〝スクショ〟して集める調査」「日常で幸せを感じる瞬間を記録し、その瞬間に身体のどこでどのように幸せを実感しているかを記入してもらう調査」など)が重なることで、ワクワクするような発見とアイデアが生まれました。
 このように「教養知」と「生活者発想」を重ねることで社会に新しい価値を生み出す活動を「Liberal arts Inno­vation Village(略称LIVe)」と名付け、社会連携活動として、今後さらに広げていく予定です。関心や賛同をいただける学生の皆さん、教職員のみなさん、学外の方も含め、ぜひ一緒に活動を進めさせてください。

image646_06_1.pngチームで学び合い、発想し、合意形成していく、ブランドデザインスタジオの授業風景

(教養教育高度化機構)

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