HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報646号(2023年6月 1日)

教養学部報

第646号 外部公開

<時に沿って> 化学・生化学から言語学の世界へ

ローランド・ダグラス

image646_06_2.jpg 二〇二三年四月一日付けでグローバルコミュニケーション研究センターに着任したローランド・ダグラスです。私の学部専攻は化学・生化学で、言語学のPhDはコロラド大学で取りました。学部で化学・生化学を志望した理由は、人間のような複雑なものが、原子といった構成要素からどのように生み出されるのか、興味があったからです。
 大学生の時は、選択科目を取る余裕などないほど、科学関連の必修科目で手一杯でしたが、一、二年生の時には、大学のジャズバンドに参加し、有意義な時間を過ごしていました。ただ、三年生になり、勉強が忙しく練習があまりできなかった私はバンドのオーディションに落ちてしまいました。でも、偶然、日本語のクラスが開講されたことを知り(当時、日本語はマイナーな言語)、なんとなく面白そうだと、その授業を受けることにしました。これが私の人生における大きな転機となりました。
 言語学の大学院生が教える授業は思った以上に楽しく、これを契機に言語学入門の授業も取ることにしました。この時点では、言語学を少し齧った程度でしたが、原子と言語は同じであると思い始めました。つまり、化学と言語学は全く違う分野であるとよく言われますが、自分から見ると、そんなに違うとは思えなくなったのです。そして、三年生の終わりに、日本からの留学生の会話パートナーとして、全米を一カ月間バス旅行するという企画に誘われました(たったの五〇〇ドルで一カ月間全米を旅行できるなんて、貧乏学生の自分にとっては魅力的なオファーでした!)。私は、この旅行を通して、日本人留学生の英語力が向上する過程や非母語者がよく間違えるパターンと間違えないパターンが色々とあることがとても面白く思えました。
 そして、大学卒業。私は化学研究所に就職しましたが、一年後、研究室での生活が想像していたよりも刺激的ではなく、言語学を学びたい意欲がますます強くなりました。そこで、研究所を辞めて日本に移り住み、東京で二年間英語を教えた後、アメリカに帰国し、大学院で言語学と認知科学を学びました。二〇一三年夏、私は東京に戻ることを決意し、東大駒場の客員研究員を経てALESSプログラムの特任講師として授業を担当しながら、駒場の心理言語研究コミュニティで研究をするという、楽しく温かい経験をしました。ですので、この度、駒場で再び教鞭を取り、研究を行うこととなり、とてもワクワクしています。
 私の研究テーマは、母語話者と非母語話者が言語を理解し生成する際にどのような心的処理と表象を使用するのか、そして、その心的処理と表象が言語習得の過程においてどのように変化するのかを突き止めることです。「人間はどのようにして、原子という構成要素から生み出されるのか」という点から始まった私の興味は、今も私の研究テーマの一部です。

(グローバルコミュニケーション研究センター/英語)

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