HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報647号(2023年7月 3日)

教養学部報

第647号 外部公開

駒場桜史と植栽管理

田村 隆

 駒場の環境委員会では、計画的な植栽管理を進めている。令和三年度から和田元前委員長のもと新たに八年計画が始まり、本年度は三年目にあたる。
 キャンパスの各所で鳥の巣状に小枝を編んだ不思議な造作物を見かけるかと思う。バイオネストと呼ばれるもので、環境整備の際などにこの中に落葉を集め、腐葉土化させている。その分可燃ごみが減り、できた腐葉土はテニスコートそばの圃場に入れて、駒場博物館前にあった花桃(源平桃)の実生苗を育てている。写真のバイオネストの下にはカブトムシの幼虫が何十匹もいて、一度にあれほど見たのは初めてだった。よい寝床らしい。

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 『東京大学新聞』第一七〇八号の「駒場を桜と梅の庭園に」(一九六五年三月一日)には、同月初旬に「日本花の会」から八重桜五〇〇本、枝垂桜二六〇本などの苗木が寄贈される計画が載っており、キャンパスの桜はこのときの木も多いのではないか。ソメイヨシノ寄贈の記載はないが、四年前に伐採されたソメイヨシノ危険木の切り株の年輪は八十九年とのことだった。一高よりも遡り、農学部時代という計算になる。
 最近は古木の腐朽や枝折れが目立つ。まだ咲く桜を切るのは惜しいことではあるが、危険な状態の木については樹木医による診断および環境委員会での審議の上で剪定もしくは伐採を行っている。桜にかぎらず、シンボル樹木のポプラも倒木の危険から五月二十日に伐採された(年輪は約六十年。圃場で挿木による育成を試みる予定)。ただし切るばかりではなく、長期的な景観保全を見据え、植樹と組み合わせて構想することが肝心である。その一環として昨年一月二十七日、コミュニケーション・プラザの中庭に枝垂桜が植えられた。これは京都円山公園の祗園枝垂桜直系の桜で、桜守として知られる十六代佐野藤右衛門氏が種から育てたものである。由来が記された説明板を今年の三月八日朝に桜の前に立てた。揮毫は東京大学書道研究会の増田海音さんによる。正門守衛所横、情報教育棟南西斜面、北門付近の三箇所にも、同じく藤右衛門氏が育てた山桜系の新種三本を植樹した。その相談も兼ねて、昨年九月には経理課施設チームと富士植木の皆さんとともに藤右衛門氏を訪ねた。

image647_03_2.jpg撮影:総務課広報・情報企画チーム 佐野めぐみ氏

 大正末年、荒川堤の里桜(八重桜)の接木苗が寺﨑良策氏によって駒場農場で育てられ、京都の十四代佐野藤右衛門氏に託された(佐藤俊樹「駒場の桜 由来を訪ねて」(『教養学部報』第五四八号、二〇一二年六月六日)に詳しい)。寺﨑氏は大正二年の「職員進退録」(東京大学文書館柏分館所蔵)によれば、明治十八年に新潟県に生まれ、大正二年七月に東京帝国大学農科大学農学科を卒業後、十一月十九日付で農科大学副手を嘱託された。京都府立植物園の主任技師も務めた。
 昨年三月、丹沢で種子を採取・育成されたという関東の山桜の苗木約二十本がコブシの伐採跡など各所に植えられ、無事に咲き始めた。今年四月には山中湖にある本学富士癒しの森研究所(旧富士演習林)で満開のマメザクラ(フジザクラ)を見学した。齋藤暖生前所長をはじめ研究所各位の高配により、秋に林内の実生木を苗として分けていただき駒場に植えることが計画されている。

(環境委員会委員長/超域文化科学/国文・漢文学)



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