HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報647号(2023年7月 3日)

教養学部報

第647号 外部公開

<時に沿って> 駒場で教え教わる

野海俊文

image647_04_2.jpg 二〇二三年四月に広域科学専攻相関基礎科学系に准教授として着任した野海俊文です。理論物理学、特に素粒子論・宇宙論を専門としています。二〇一三年に駒場で学位を取得し、理化学研究所、香港科技大学、神戸大学でのポスドク・教員生活を経て、十年振りに古巣へ帰ってきました。
 駒場に着任するにあたり、ある先輩数学者から「駒場の授業では、二十年前の自分が座っていると思って準備しな」とアドバイスをもらいました。十八歳の時の自分を思い出すと、総合科目の相対論や量子論は気合を入れて出席する一方で、例えば基礎科目の力学は「どうせ高校物理と一緒やん」となめきってサボることもしばしば(試験前に大慌てで勉強することになるので、学生のみなさんは真似しないようにしましょう。そして当時の先生ごめんなさい......)。授業の風景を思い出しても、知っている話題が続くとすぐに学生が騒ぎ始めてまるで動物園状態。これは大変だと気を引き締めると同時に、やはり先輩も生意気だったのだと妙に納得したものでした。
 因果応報、駒場で担当する最初の講義は力学でした。しかも、四月三日に辞令をもらったと思ったら、その週のうちから授業が始まります。コロナ禍の名残で初回授業はオンラインでやるようにとのお達しもありました。さてどうしたものか。再び先輩のアドバイスが頭をよぎります。入学直後に自分が求めていたのは「刺激」だったなと思い返し、せっかくのオンライン講義なので初回はぶっ飛んだ話題も織り交ぜようと心に決めます。先輩の口癖でもある「特殊函数の三種の神器」(微分方程式、級数表示、積分表示)になぞらえて、「力学の三種の神器」として運動方程式、ラグランジュ形式、ハミルトン形式の心を伝えることにしました。いざ、初回講義へ。
 講義が始まると学生から鋭いツッコミが飛び始めます。「最小作用の原理と言ったけど、その条件では極大か極小かわからないじゃないか」などなど。対面の講義が始まってからも、こちらの話の面白さやわかりやすさに応じて態度や表情がすぐ変わるし、自ら進んで発表してくれる学生もいるので、授業を担当する側としてもいつも刺激をもらっています。これまで以上に「サイエンスとして何がどう面白いのか?」を意識して講義に挑んでいる気がします。この姿勢が自身の研究にも良い影響を与えてくれると良いなと思っています。
 とりとめのない話になってきましたが、駒場での新生活では、学生に刺激を与えることを意識し、逆に刺激をもらっています。サイエンスを教えているようで、科学者としての姿勢を彼ら彼女らから教わっている気もします。こういう刺激的な研究教育生活をこれからも駒場で送って行けたらなと思います。教室の中の誰かが二十年後に「二十年前の自分」を思い出してくれる日が来ると信じて。

(相関基礎科学/物理)

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