教養学部報
第648号
<時に沿って> その男、東京に着き
山口雅人
二〇二一年に本研究科で博士取得後二年間、ポストドクターとして研究をしておりましたが、このたび縁があって駒場に戻ってまいりました。
自分の研究者としての原点を考えると、おそらく幼少期に目に触れた周期表が大きな影響を与えたのではないかと思います。〝万物は百数十個程度の元素の組み合わせで構成される〟という概念はプラスチックの素材はプラスチックと考えていた当時の自分に大変な衝撃だったはずです。そして、周期表は同族に対して似たような性質を、同周期は遷移金属やランタノイド、アクチノイドなどにみられる緩やかな性質変化を纏めたものであると、この配置を素直に受け入れました。その後、量子論で周期表における元素配置が説明されることを知り、再度衝撃を受けたことは記憶に新しいです。このような経験から性質変化の根源を小さなスケールで説明したいという感情が育ち、現在に至ります。
専門はクラスター化学で、主に気相金属クラスターに取り組んでいます。クラスターという言葉は昨今のコロナウイルスのパンデミックの影響で耳にする機会が増えましたが、本来は何かしらの集団を指す言葉です。クラスター化学は数個から数百個の原子・分子やその構成をコントロールし、〝集団〟の物性に迫る学問です。ただし、マクロなサイズと大きく異なるのは、その可算個である原子数によって物性が大きく変化する点です。例えばクラスターは構成原子数が偶数か奇数かによって反応性が変わることもあります。周期表は新たに個数の次元を獲得し、あたかも三次元の周期表となるわけです。この性質変化を解き明かすために真空装置とレーザーを駆使しながら実験に努めている次第です。
写真は九州大学でポスドクをしていた頃のものです(駒場の地名は馬留があったことに由来するそうなので)。東京に着き、思いだしたこと、それは空の狭さです。休日はよく、自然の癒しを求めて郊外へ出奔します。山登りやツーリングで触れる風景の広大さとクラスターサイズの差が面白いから......というのも理由の一つかもしれません。そんな中、空の広いこの駒場を拠点として皆さんと過ごせることを非常に喜ばしく思います。学生の皆さんとは学生実験や卒業研究等でお会いすると思われますが、その際は、学問その他を問わず、様々なことに興味を持ってもらえるように努めたいです。また、駒場は多様な分野の研究室が横断する場所です。第一線でご活躍される先生方の胸をお借りし、様々な知識と経験を重ねながら教育と研究に励みたいと思います。
改めまして、二〇二三年七月に総合文化研究科に着任いたしました。皆様どうぞよろしくお願いします。
(相関基礎科学/化学)
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