HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報649号(2023年11月 1日)

教養学部報

第649号 外部公開

通販サイトのレビューで参考になるのは「少数派のレビュー」:Amazon.comの大規模データの分析と同調圧力による説明

植田一博

 皆さんは通販サイトで買い物をするとき、どのようなレビュー(口コミ)を参考にしているでしょうか? 我々の研究グループは、「多数派の意見をなす平均的なレビュー」よりも、多数派の意見からずれた異論を唱える「アウトライアーレビュー」が、商品選択を行う際に有用性が高いことを明らかにしました。

 大規模なオンラインレビューから商品選択に有用な情報を抽出することは、集合知の有効な活用のために重要な課題となっています。これまでは、オンラインレビューの平均的な評価(例・平均の星の数)に注目して、商品選択に有用な情報を抽出するための手法が提案されてきました。一方で、オンラインレビューでは一般に、肯定的な評価が圧倒的に多いことも指摘されています。この評価分布の偏りは、人々が他者の意見や行動に足並みを揃える社会心理プロセスである同調圧力の影響により形成されているため、偏った分布を基に計算した平均的な評価は、有用な情報を引き出すのに十分ではないとも指摘されています。そのため本研究では、平均的な評価から大きく離れた、異論を唱えるアウトライアーレビューに注目し、アウトライアーレビューから商品選択に有用な情報を抽出できるかどうかを検討しました。

 具体的には、Amazon.comに一九九六年五月から二〇一八年十月までに投稿された、英語の商品レビュー五千万件以上のデータを収集し、この大規模データセットからアウトライアーレビューを特定しました。その際、ある商品に対するすべてのレビューの評価点(星の数)の平均を基準にし、平均値から大きく離れた評価を与えているレビューをアウトライアーレビューと定義しました。Amazon.comのレビューの平均は5点満点中4・2点と高いため、今回の分析では低い点をつけたレビューがアウトライアーレビューに該当します。

 次に、Amazon.comで提供されている「Vote」機能を利用して、すべてのレビューの有用性を測定しました。「Vote」機能とは、ユーザー(レビューの読者)がレビューを有用と思ったときに投票する機能です。「Vote」数が多いレビューほど読者の購買決定に有用な情報を提供していると考えられます。

 さらに回帰モデルを用いて、アウトライアーレビューの有用性を他のレビューの有用性と比較した結果、他のレビューよりもアウトライアーレビューの有用性が高いことが明らかになりました。書籍、ファッション、家電など調査した七つの商品カテゴリーすべてにおいて同様な結果が得られました。

 アウトライアーレビューの有用性が高い理由を分析するために、AIと自然言語処理技術を用いて、アウトライアーレビューが提供している情報の質を、「充分性」、「主観性」、「簡潔性」の観点から調べました。その結果、上記のすべての点において、アウトライアーレビューの質が高い、すなわち、主観性が低い一方で、充分かつ簡潔な情報を提供していることが明らかになりました(図1)。

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図1:レビューの評価が平均値からどの程度離れているか(横軸)とレビューが提供する情報の
それぞれの質(縦軸)の関係性。曲線の色は商品のカテゴリーが異なっていることを示す。

 詳細は省略しますが、シミュレーションによる分析を行った結果、⑴このようなアウトライアーレビューの情報の質の高さが「Vote」数(すなわち有用性)に大きく影響していること、⑵他のレビュワーが高い点を与えているので自分も多数派に従った方が良いという同調圧力が存在するためにかえって、アウトライアーレビューを投稿するレビュワーは自身のレビューの質を高めようとしていることが示唆されました(図2)。

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図2:アウトライアーレビューが有用になる仕組み(概念図)

 今後は、アウトライアーレビューに注目することで、消費者個人も企業もより正確かつ客観的な情報を得られるようになり、商品やサービスの購入や提供に関する意思決定が改善されると期待されます。またこれまでは、社会的な偏見の形成や少数派意見の抑圧などに代表される、同調圧力のネガティブな影響のみが指摘されてきました。それに対して本研究は、同調圧力がアウトライアーレビューの有用性と関連し、ポジティブな影響を与えることを示唆した点が新しいと言えます。

 なお本研究は、Nature Portfolio Journalの一つであるScientific Re­portsに掲載されました(二〇二三年六月二十七日)。

(広域システム科学/情報・図形)

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