HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報650号(2023年12月 1日)

教養学部報

第650号 外部公開

<時に沿って> 変わりゆくものと変わらないもの

粟井文康

image650-04_3.jpg 二〇二三年九月から、総合文化研究科広域科学専攻の助教として勤務することとなりました粟井文康です。東京出身で中高校時代も駒場東大前駅を利用して通学していたため、かれこれ二十年以上もこの駅を使い続けております。その間、学生時代から仲間たちとよく行っていた苗場やみしまやマクドナルドも先日閉店し、大学院時代に研究の合間によく行っていたつけ麺屋は私が学生でなくなったくらいのタイミングで学生だけ無料のカフェになったりと、ずっと変わらずにそこにあると思っていたものが変わっていく様子を特に最近は強く感じていました。そんな中私も長らく研究員として駒場で働いていたわけですが、この度助教として着任することとなり、自らの身にも大きな変化が生じることとなりました。 研究においてはもともと環境エネルギー問題に関心があり、学部生時代は本学の工学部システム創成学科環境・エネルギーシステムコース(E&E)へ進み、環境エネルギー問題全般を大きな枠組みから学びました。そして当時の自分なりにいろいろ考えた結果、問題の根本解決のためには持続可能な一次エネルギー源を確保することが最も効果的であるという結論に至り、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーとして太陽光発電に注目しました。中でも既に商業化されていたシリコン太陽電池に対して、有機物を用いた新しい太陽電池として色素増感太陽電池(DSSC)に研究の可能性を感じ、修士課程から瀬川研究室に進んでまた駒場に戻ってくることとなりました。

 こうして修士・博士課程ではDSSCの研究に取り組んだのですが、その間に世間ではペロブスカイト太陽電池という新しい分野が注目を集めることとなりました。もともとDSSCに使われる色素の代わりにペロブスカイト構造をとる有機金属ハライドを用いたところから研究が始まり、現在ではノーベル賞候補の一つと言われることもあって研究者でなくとも「ペロブスカイト」という単語を耳にしたことがあるという人も増えてきました。そんな新しい研究がゼロから生まれ発展していく過程を間近で見られたのは幸いであったと共に、自分もそういった新しい可能性を示すことができたらと日々研究に取り組んでおります。

 授業では、教養学部前期課程の学生へ向けた基礎化学実験の担当をしております。自身も学部時代に一度は学生として受けたことのある授業で、担当にあたり当時の実験ノートを引っ張り出してみました。印象に残っていた普通のコーヒーとカフェインレスのコーヒーの成分を比較する実験が今は別の実験に置き換わっていたりと、こちらでも時代の変化を感じる一方で、水素の原子スペクトルの観察や有機分子の軌道計算など当時から変わらず残っている内容もあり懐かしさを感じました。そういったいつの時代も変わらない学問の基礎、そして変化にも柔軟に対応してゆける考える力を授業を通して伝え、共に学んでゆけたらと思っています。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

(広域システム科学/化学)

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