HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報651号(2024年1月 9日)

教養学部報

第651号 外部公開

<駒場をあとに> 心からの感謝を込めて

松井恵子

image651-4-1.jpg 一九九六年六月にイギリスから帰国し、梅雨時の湿気に閉口しながら船荷の整理に追われていた時に、駒場の教養学部長室で非常勤だが秘書を探しているのだがどうかと声をかけていただきました。私はとにかく早く社会復帰しなければと思い、あまり深く考えないで応職したのですが、その時にはこのように長い間駒場にいることになろうとは思いませんでした。
 当時の駒場はキャンパスの再整備計画の一環として駒場寮の廃寮が進められており、建物の明け渡しを巡って大学と自治会団体が対立していました。101号館二階の学部長室には「特別委員会」の先生方が昼夜を問わず頻繁に出入りし、時には学生が乱入するなど不穏な空気が漂っており、当初抱いていたアカデミックなイメージとは違い、とんでもないところに来てしまったのかと思いつつ、山のように降ってくる事案の調整に追われる毎日でした。

 三年ほどたった時、東大総長がAEARU(Associa­tion of East Asian Research Universi­ties)という東アジアの十七の研究型大学が加盟しているコンソーシアムの会長を務めることになり、その事務局を回してくれないかと声をかけていただきました。大学卒業後外資系企業で働いた経験があり、その後イギリスにもいたので英語がそこそこできるだろうと思われ、また学部長室での仕事ぶりを評価してくださってのことのようでした。経験がない私に務まるかどうか不安でずいぶん迷いましたが、覚悟を決めてそのオファーを受け、二年任期で工学部の助手として本郷の本部棟五階の当時の国際交流課の一角にオフィスを構えることになりました。総長直下で決して失敗はできないというプレッシャーの中、蓮實総長と佐々木総長に一年ずつお仕えし、特に大きな問題もなく次の大学へ事務局をパトンタッチできたのは、周りの方のサポートと私の至らぬ面を大目に見てくださった両総長の寛大さのおかげと感謝しています。短い期間でしたが本部にいたおかげで大学全体が見渡せるようになり、また国際交流課に間借りさせていただいたことで大学の国際交流のありようを学ぶことができ、その二年間はその後駒場で国際交流関連の業務に携わることになる私の貴重な財産となりました。

 二〇〇二年四月に駒場に戻り、国際交流担当の助手としてAIKOM(Abroad In KOMaba)という教養学部短期交換留学プログラムの運営を手伝うことになりました。留学生と接点をもつのは初めてで最初は緊張しましたが、学生との交流は新鮮で楽しいものでした。しかしまもなく、駒場の国際交流体制の整備・強化を図るため「国際研究協力室」が設置されることになり、今まで個々の教員が行ってきた国際交流の実務的なサポートをするために私はその部署に移り、国際交流協定や大学主催の国際会議・シンポジウム実施のためのロジなどを担当することになりました。最初に携わった仕事は「東アジア四大学フォーラム東京会議2003」で、その時の私は大した戦力にはなりませんでしたが、若手の先生方(今では皆さん立派な大教授です)と開催に向けて一丸となって準備をし、会議を成功裡に終えることができました。このイベントがきっかけで私は駒場で働いていく覚悟ができたように思います。その後もいろいろなイベントの開催を手掛けて経験を積み、現在では外国人研究者支援、KOMSTEP(KOMaba STu­dent Exchange Pro­gram)という部局間学生交換プログラムの運用なども含めた幅広い対応ができるようになりました。国際研究協力室が設置されて早二十年が過ぎ、徐々に体制も整い、これからさらに頼りにされる部署として発展することを願いつつ、いよいよ次へバトンタッチする時がきました。

 私は長年国際交流関連の業務に携わってきたのですが、もとより自分で何かを企画して実践する能力や行動力があるわけではなく、人と人を上手くつなぎ、ものごとがスムーズに進むよう段取りをし、手掛けたことが最終的に何か良い結果、成果につながるよう日々努力してきました。また、その時その時頼まれたことや与えられたことに真剣に取り組み、それが評価されてまた次に繋がり、結果的に専任講師というポジションにつけていただき、大変やりがいのある仕事をさせていただいことを大変ありがたく思っております。これは私をこれまでいろいろな面で支えてくださった周りの皆様のおかげであり、あらためて御礼を申し上げます。
 私は二十七年前、期待と少し不安な気持ちを抱えて現在オフィスのある101号館の玄関をくぐりました。その後八回の引っ越しを経て(おそらくこれは駒場での歴代最多記録?!)、幸いにも再びこの由緒ある建物に戻り、ここでまた多くの貴重な経験をすることができました。そしてもうすぐたくさんの思い出を抱えてこの101号館を後にします。
 長い間お世話になり本当にありがとうございました。皆様のますますのご活躍とご健康を祈念しております。

(国際交流センター)

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