HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報651号(2024年1月 9日)

教養学部報

第651号 外部公開

<送る言葉> 国際交流の達人 ――松井恵子さんを送る

森山 工

 大学をはじめとする学術機関における国際交流。これについてみなさんはどのようなイメージをおもちでしょうか。
 もちろん、現在の本学キャンパスにおいては、多様な国籍や出自をもつ教員・職員・学生がいて、キャンパス内で日々の国際交流がおこなわれています。けれども国際交流ということばで想起されるのは、キャンパス内での日常的・恒常的な関係であるよりも、国境を越えた大学間の相互交流ではないでしょうか。そして、それを体現する交流事業(国際シンポジウムなど)ではないでしょうか。つまり、国際的な参加大学の布陣のもとに何らかのイベントを企画し、実現するというかたち。これが大学における国際交流として想起されるものでありましょう。

 わたしが運営に携わったり、じっさいに参加したりした過去の例でいうと、「東アジア四大学フォーラム」という国際交流事業がありました(一九九九~二〇一四年)。北京大学、ソウル大学校、東京大学、ベトナム国家大学ハノイ校で構成される学術会議で、これら四大学のそれぞれが毎年持ち回りで主催校をつとめ、教育研究について一堂に会して討議するものです。ここでは、「東アジア」的な価値を相対化しつつも、そこにおける多様性と統一性を精査する学術交流がおこなわれました。
 もう一つ、わたしが運営に携わった例では、現在進行中のライデン大学(オランダ)と総合文化研究科とによる共同講座があります(二〇二一年から)。これは、外交官として活躍され、ハーグの国際司法裁判所長もつとめられた小和田恆氏の功績を称えて設置された共同講座です。ライデン大学と総合文化研究科との持ち回りによって、とくに国際関係(現実の分析)と国際司法(規範の定立)という二つの側面から、教育研究の学術交流を図っています。 さて、ここまでお読みいただいて、本稿が「松井恵子さんを送る」記事であることをいぶかしく思われた向きも多かろうと思います。松井さんの名前が登場していないのですから。

 そこで、共同フォーラムや共同講座という一見すると華やかな知的交流を実現するためには、それを下支えする地道な仕事が必要であることに注意を促したいと思います。相手大学との事前の連絡調整。派遣教職員の航空券や宿泊所の手配。当日の会場整備。会期中の昼食の手配やレセプションの調整。相手大学との事後的な連絡調整。などなど。そして、総合文化研究科・教養学部においてこうした国際交流の下支えのお仕事をほぼ一手に担ってこられたのが松井恵子さんだったのでした。
 フォーラムや講座の現場においては、著名な研究者が登壇して報告をおこない、学生をも含めた華々しい討議の場が設定されます。けれども、舞台裏でそれを支えている人がいる。その人自身は表舞台に立つことがないながらも、舞台に乗った人々を、まさに舞台に乗せるということで活かしている人がいる。それが相手大学との連絡調整を大きな役目の一つとするところから、このような舞台裏の仕事そのものが「国際交流」であるのです。

 松井恵子さんは、先述の「東アジア四大学フォーラム」のときも、またライデン大学との共同講座の実施にあたっても、誠実に・堅実に・緻密にお仕事にあたってこられました。卓越した英語運用能力をおもちであることに裏打ちされた仕事ぶりには強い信頼感がありました。電話やファクスやメールで相手大学とやりとりをなさり、その結果をこちらの行動指針にフィードバックさせる手捌きは、まさに国際交流の現場にいる人のそれでありました。表舞台も裏舞台も知り尽くした人。国際交流の達人にほかなりません。

(地域文化研究/フランス語・イタリア語)

第651号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報