HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報651号(2024年1月 9日)

教養学部報

第651号 外部公開

<送る言葉> Prof. PGに捧ぐ

増田 建

 PGとは、サッカーのペナルティゴールではなく、リン脂質であるホスファチジルグリセロール(Phosphati­dyl glycerol)の意味です。植物の葉緑体の膜は、リン脂質を主体とした一般的な生体膜と異なり、その90%程度が糖脂質で占められ、残る約10%の脂質がPGです。このように存在量は少ないPGですが、葉緑体における光合成の機能に必須であることが知られています。

 和田先生、いつものように和田さんと呼ばせていただきます。和田さんはこのPGの機能について長年研究をされてきました。PGを合成できないシアノバクテリアやシロイヌナズナ変異体の機能解析や、光合成の光化学系のPG結合部位にアミノ酸変異を導入して、PGが光合成にどのような影響を及ぼすかなど、詳細な研究を展開してこられました。ある意味、ニッチな研究ではありますが、植物脂質研究に大きな貢献を果たしてこられ、正にProf. PGと呼ぶに相応しいと方だと思っています。

 和田さんと初めて会った記憶は実は曖昧です。恐らく二〇〇二年に和田さんが九大から東大に異動され、東京近辺の同門の三名の植物脂質研究者が、何れも名字が「◯田」で仲も良かったために、定期的に「三田会」なる研究室同士の集まり(飲み会)を催していました。私は当時、東京工業大学の助手であり、同僚が三田会のメンバーであったことから、その集まりに参加し、そこでお会いしたのが初めてではないかと思っています。和田さんは、高等専門学校を卒業後に東京農工大に編入学され、東大の大学院修士課程で修士の学位を取得されました。その後、東京電機大の助手、基礎生物学研究所の研究員を経て、東大で理学博士(論文博士)の学位を取得されました。一九九〇年にNature誌に発表された、脂肪酸不飽和化酵素の論文は伝説になっています。その後、基礎生物学研究所の助手、九州大学の助教授を経て、二〇〇二年に駒場に着任されました。私は二〇〇四年に駒場に着任したので、二年遅れで同僚となり、それ以来約二十年来のお付き合いになります。その間、私達は研究室の合同セミナーを行ってきた研究の仲間です。思慮深い和田さんとの議論は、いつも学術研究における注意点や異なる視点の重要さを教えてくれました。生物部会において、和田さんの同僚として研究できたことは、私にとってかけがえのない研究経験になったと考えています。

 和田さんは、大人しく紳士的な印象ですが、D&Iの時代にこのような言い方は憚られますが、所謂「九州◯◯」であり、熱い情熱をお持ちの方です。正義感が強く、様々な物事に対して是々非々で対応され、理不尽なことには断固とした対応も取られます。学内業務にも真摯に対応され、高く信頼されていることから、広域科学専攻長、副研究科長を初めとして、これまで様々な要職で力を発揮されてきました。特に環境委員長として、駒場の環境美化にも尽力されてきたことは、皆さんの記憶にも新しいと思います。駒場で見かける、バイオネストは和田さんが始められたもので、これまで可燃ごみとして処理していた落ち葉を腐葉土として再生させる試みです。最近はここで多くのカブトムシの幼虫が孵化し、育っているのがわかっています。
 私自身も和田さんを非常に頼りにしており、困ったときには和田さんの部屋を訪れては相談していました。様々な悩みを相談できる和田さんのおかげで、何とか心を平静に保てられたと思っています。このように頼りになる和田さんが、駒場を去られるのは大変残念でなりません。定年退職後は地元の宮崎に戻り、実家の山の管理や、農業をされると伺っています。是非、また遊びに行かせていただきたいと思います。最後に、Prof. PG・和田さん、これまで長い間本当にありがとうございました。

(広域システム科学/生物)

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