HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報652号(2024年2月 1日)

教養学部報

第652号 外部公開

<送る言葉> 集いの中心がまた一つ...... ――渡邊先生を送る

道上達男

 渡邊雄一郎先生との出会いは一九八八年、もう三十五年も前になる。理学部の三年生だった私は学生実習で初めて渡邊先生の指導を仰ぐことになるが、さっと前髪を横にながし眼鏡をかけられたその感じは、正直その当時も今も全くお変わりがない。

 渡邊先生は理学部生物化学科・岡田吉美教授のもとで学位を取得された後、助手をなさり、定年退官された岡田先生とともに帝京大に異動して助教授を務められた。その後、駒場に生物部会、生命・認知科学科(現統合自然科学科)、生命環境科学系の教員として着任され現在に至る。ご研究は植物を実験材料に用いたRNAの分子生物学で、近年ではゼニゴケ、シロイヌナズナなどにおける小分子RNAの役割について研究を続けてこられている。渡邊研からは、優秀な、そして人間としても素晴らしい人材が多く輩出されている。研究科では副研究科長や系長などをはじめ、ありとあらゆる要職を務められてきたが、やはり渡邉先生と言えば英語関連の学内業務への積極的な参加が思いつく。特に国際環境学プログラム(GPES)には深く関与されていたし、また渡邊研にもPEAK・GPESの学生さんが何人も出入りし、国際色豊かな研究室の雰囲気が醸し出されてきた。

 渡邊先生の印象を一言で言えば容姿も行動も"スマート"。これは、ご存じの方ならきっとうなずいてくれるはずである。強く前に出られることはあまりお見受けしたことがなかったが、単に優しい先生というよりは、一本筋が通ったところがあり、強い信念をお持ちという印象もある。加えてすらっとした体格、やはりスマートという言葉が似合う先生だと思う。自ずと研究室には多くの学生さんが所属することとなり、渡邊研は何か賑やかな印象がある。その一環として渡邊研の居室では他の研究室の教員や学生さん、時には職員さんも参加して飲み会が行われることがしょっちゅうだったが、これもまた渡邊先生の人間性がなせる技のように思う。とにかくいろんなヒトがたくさん渡邊先生のところに集まった。

 渡邊先生が目指したのはやはり「分野横断・分野融合」なのかもしれない。駒場には本当にいろいろな分野が集まっている。その融合から新たな概念や価値観が導出されるのは生物学でもそうだし、学問自体もそうだし、文化そのものもそうだろう。そのためには、他を排除したり否定することではなく受け入れることが大事であり、それを渡邉先生は実践してきたのだと思う。英語に関わる職務を多く担当されてきたのもその一つだろう。駒場という学際的な大学環境はこれから更に重要になると思われるが、残念ながら理系教員は特にその辺が必ずしも得意ではない。つまり、渡邊先生のような先生が必要だったということである。

 渡邊先生が駒場を去られるのは本当に残念であり、正直残された人間は不安な気持ちになる。今はまだ分からないが、来年度しばらくたった頃には「ワタナベロス」をきっと感じているのではないだろうか。

(生命環境科学/生物)

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