HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報652号(2024年2月 1日)

教養学部報

第652号 外部公開

<送る言葉> 博士、こんなん育っちゃいました

広瀬友紀

 加藤先生には、これまで不思議なほどに応援ばかりしていただいたように思う。十数年前、自分が着任した際に部会の面談で初めてお会いしたときは、正直あまり優しそうな印象は持たなかったことを白状するが、なんのなんのそこから幾星霜。ご専門分野のご指導をいただき研究の幅が広がりました、で留まれば格好もつくだろうが、「私の大学アドレス発のスパムが出回ってるみたいなんですけどぉ泣」などネットワークまわりでの「困ったチャン救出」系ご面倒も何度もかけた。しかしまだそれだけではない。自分が何かにつけ稚拙な提案や的外れの相談をする度に、これはとにかく大学をよりよいところにするために知恵を絞ったことなんだよね、応援する意味があることなんだよねと、たいてい無条件に信頼して(と見えた)、応援くださった。やがて自分は、真面目に考えたことであれば何であれ、きっと加藤先生ならわかってくれるはずだという根拠もない肯定感を勝手に培うに至ったのである。その結果か、今、十回に一回くらいは役に立ちそうなことも言えるようになった(気がする)私がいる(たぶん)。こんなに好き勝手にやってきたのによく育てていただいたものだ。

 加藤先生の学生さんも、私の知る限りのびのびと活躍し、巣立っていった。語彙の体系を計算機上にどう実現するか。コーパスという壮大な言語仕様記録から、言語というヒトの知識のしくみに迫るヒントをどのように抽出することができるか。言語情報科学専攻における「情報」、学際言語科学コースとしての「学際」の中心を、加藤先生は実に長きにわたって体現しながら、学術界のみならず産業界にも元気な人材を送り出し、これから進学を志す学生さんたちの視野や可能性の幅も広げ続けてくださった。歴代の学生さん達も、好き勝手の程は様々だろうが、きっと私と同じように感じているに違いない。

 一方、工学博士の加藤先生ご自身にとってやりづらかったのは、前期部会「英語教員」としてのアイデンティティを模索することだったろうと勝手に想像する。英米文学、英米文化・芸術・地域研究、英語学などなど、研究対象としての英語愛やこだわりがあふれ、キャリアの最初から英語を/も教える仕事を視野に入れてきた、いわば東大英語ガチ勢の面々の中で「英語担当教員です」という状況に身を置くことはかつて想定外だったろうから。しかし、駒場で英語科目を履修する学生たちだって、彼らのその後のキャリアにおける外国語との関係性は多様であるはず。言葉を、英語を、時には道具や素材や科学の対象として扱うプロがいる。その立ち位置からの距離で、いち言語としての英語を眺めてはじめて見えるものがある。そうした語学教員のロールモデルはむしろ得がたい駒場の強みとして必ず引き継いで行きたいし、まずはその役目をこれまでずっと背負ってきてくださった加藤先生を心からねぎらいたい。そして......また何かあったら助けてください(いまだ困ったチャン)。


(言語情報科学/英語)

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