HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報652号(2024年2月 1日)

教養学部報

第652号 外部公開

<送る言葉> 山本昌宏先生の定年退職に添えて

石毛和弘

 山本昌宏先生と言えば逆問題、逆問題と言えば山本昌宏先生というように、山本昌宏先生と逆問題は切っても切り離せない関係であり、まさに、偏微分方程式論における逆問題の世界的研究者です。微分方程式論における逆問題とは、得られたデータから、現象を支配する偏微分方程式の決定や過去に遡って解の様々な量を評価する問題のことを言い、自然科学、工業や医学など幅広い分野と関連する研究分野です。山本先生は、院生・助手時代に京都大学の山口昌哉先生らによる研究集会等に参加するにつれ、応用解析の課題を自由に、そして柔軟に探索し追及することの楽しさを感じ、逆問題を研究の中心に据えて行ったそうです。山本先生の研究者としての歩みは偏微分方程式論として逆問題が大きく発展する歴史と共にあり、また、山本先生はその歴史の中心にいたと言えます。

 山本昌宏先生は一九八五年に東京大学教養学部数学科の助手に採用されたとのことですので、約四十年の長きに渡って東京大学にて研究・教育に携わってきたことになります。近年は、研究・教育の他、東大数理における企業との連携・連絡の窓口のような役割も担われ、企業の研究者の方々との研究交流も多く為されてきました。山本先生は海外を飛び回っていることもあり、その反動でしょうか、日本でお会いするときはいつもお忙しいご様子でした。多忙な時間を過ごされた山本先生ですが、イタリア、ロシア、アメリカ等の海外から研究者が山本先生を訪ねてくる際には、時々、夕方になると「ちょっといかがですか?」と言ってワインのお裾分けからの飲み会の勧誘が山本先生からありました。その甘い勧誘に、これ幸いと飲み会に参加し、楽しい時間を過ごさせて頂きましたことは良い思い出です。

 山本先生はミュンヘンを第二の故郷とおっしゃるほどのミュンヘン好きであり、大のビール党です。山本先生はフンボルト財団によってミュンヘン工科大学の客員研究員として一年あまりミュンヘンに滞在されたことがあるそうで、ミュンヘンの様々な文化にどっぷり浸って青春を謳歌されたのでしょう。その後も数え切れない程、ミュンヘンには行かれたはずです。ビールを飲みながら、ミュンヘン、ローマ、ナポリを始めとした海外各地でのお話を語る山本先生はいつもうれしそうでした。実際のところ、海外の文化や食事について現地の人より詳しいのではないか、と思うことがしばしばありました。

 私にとっての山本先生とのお付き合いは、私が東大に赴任した二〇一八年からの六年程度の短いものではありましたが、これまで研究・教育に関する様々な助言を頂いてきました。最近は、互いの研究の接点が見つかり、共同研究を見据えての議論も始まりました。山本先生はこの春に定年を迎えられますが、自由を得て、さらに研究に邁進されることでしょう。今後も一緒に渋谷近辺にて、そして折を見て、ミュンヘン、ローマ、ナポリ等に行き、数学を議論しながら飲食を楽しめる機会を得ることを願っております。

(数理科学研究科)

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