教養学部報
第653号
辞典案内 2024 国語辞典
矢田 勉
市販されている国語辞典に、全く役に立たないようなものはない代わりに、絶対的というものもない。それぞれの辞典には個性や癖があり、強みもあれば弱点もあるので、複数のものを座右に備えて引き比べたうえで、自分なりに情報を吟味して使用すること。「『広辞苑』によれば」は、学問的態度ではない。
個人で持つべき小型・中型辞典とは別に、大学生としては是非とも使いこなしたいのが、『日本国語大辞典(第二版)』(小学館、全13巻+別巻1、揃210000円)である。駒場図書館はもちろん、学内外の多くの図書館・室に備えてあるし、オンライン版が学内ネットワークに接続しているPCから利用できる(東京大学附属図書館→Literacy→定番データベース/JapanKnowledge Lib→利用する→ログイン→基本検索。UTokyo Accountで、学外からの利用も可能)。また、3巻に縮約した「精選版」(揃45000円)もあり、こちらには電子辞書版やiOSアプリ版(8000円)もある。
汎用的な国語辞典のほかに、特殊な用途の国語辞典として、方言辞典(『日本方言大辞典』[小学館、全2巻+別巻1、揃98058円]がJapanKnowledge Libから利用可能)・新語辞典(『現代用語の基礎知識』[自由国民社、1948年から年刊]がJapanKnowledge Libから利用可能)など各種のものがある。中でも類語辞典(シソーラス)は、上手く使いこなせば表現の幅を広げるのに役立つ。『類語大辞典』(講談社、6500円)、『分類語彙表』(増補改訂版、大日本図書、4700円)など各種のものがある。『角川類語新辞典』(現在品切)はJapanKnowledge Libから利用可能である。
また、日本古典を読もうとすると、古語辞典が必要となる。大学での学びでは、高校生向けの学習古語辞典ではやはり十分ではない。『日本国語大辞典』は古語辞典の役割も兼ねている(排列は現代仮名遣い順なので注意)。定評のある古語専門辞典には、中型では『小学館古語大辞典』(現在品切)、大型では『角川古語大辞典』(全5巻、JapanKnowledge Libから利用可能)がある。特定の時代の語彙を対象としたものでは、『時代別国語大辞典 上代編』(三省堂、40000円)、『時代別国語大辞典 室町時代編』(三省堂、全5巻、揃213000円)が出色である。『古語大鑑』(東京大学出版会、第1巻38000円、第2巻42000円)は、全4巻のうち既刊はまだ2巻のみであるが、漢語や漢文訓読語なども充実した、特色ある古語辞典である。やや特殊なものでは、平安時代の男性貴族の日記である「古記録」の語彙を集めた『平安時代記録語集成』(吉川弘文館、全2巻、68000円)がある。日本史研究等でも有益である。
より本格的に古典研究を行おうとすれば、それぞれのテキストが書かれた時代に編まれた辞書を使う必要がある。江戸時代以前に作られた辞書を「古辞書」というが、ここで細かく説明する余裕はない。日本語史に関する授業等を通じて触れて欲しい。
(言語情報科学/国文・漢文学)
無断での転載、転用、複写を禁じます。