HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報653号(2024年4月 1日)

教養学部報

第653号 外部公開

辞典案内 2024 漢和辞典

高山大毅

教養学部前期課程では、いわゆる「語学」の科目として、「古典日本語」とともに「古典中国語」の授業が開講されている。この「古典中国語」は、高校の国語科の「漢文」と対応している。新入生の皆さんは、受験勉強を通じて「古典中国語」を既に学んでいるといえる。折角ある程度身に付いた「語学」なのだから、その知識を合格とともに捨て去るのは惜しいことではなかろうか。上記の「古典中国語」以外にも、漢文に関わる様々な授業が開講されているので、是非、入学後も古典中国語及びそれで書かれた著作についての知識を深めていって欲しい。以下、古典中国語の読解に関わる辞典を紹介するが、古典中国語から様々な影響を受けている日本語の読み書きを学ぶ上でもこれらは参考になろう。

持ち歩き可能な辞典としては、『全訳漢辞海』(三省堂、第4版2017年、3000円)をお薦めする。品詞ごとに字義を説明しており、熟語ではなく漢字一文字の意味を調べる際には、大部の辞典(字義を多く挙げるため、かえって迷子になってしまう)に当たる前に本書を丁寧に読んだ方が良い。「付録」が充実しており、字音や文法、訓読法に関する初歩的な疑問は「付録」で解決できる。漢和辞典は字義のほかに字音・字訓・熟語・句法といった様々な情報を併記しており、紙上で一覧した方が見落としは少ない。初学者は、電子版ではなく、冊子体を購入することが望ましい。漢字の訓読みは日本語話者にとっては、字義を知る端緒となるが、時に訓読みに引きずられて字義を見失うことがある。訓読みを掲載しない田中慶太郎(編訳)『支那文を読む為の漢字典』(研文出版、第11版2010年、3000円)は、訓読みを経由せずに字義を直接把握することの面白さを気づかせてくれる。『新字源』(KADOKAWA、2017年、3000円)の「付録」の「同訓異義」は、訓読みが同じである字の意味合いの違いを知る上で便利である。

熟語を調べる際は、持ち歩き可能な辞典では大抵間に合わないので、『大漢和辞典』(大修館書店、修訂増補版2000年、240000円)や『漢語大詞典』(上海辞書出版社)に当たることになる(後者の語釈は中国語であるが、利用はそう難しくない)。大辞典であっても語義の説明には往々に不備あり、主要な用例を教えてくれる索引と見なすと良い。『大漢和』はジャパンナレッジLib経由で検索可能である(昨年4月からジャパンナレッジでも熟語検索が可能になり、便利になった)。漢文は典拠を踏まえた表現を多用するため、読解の上で典拠の知識は欠かせない(英文読解におけるイディオムの知識に相当するだろうか)。典拠表現の辞典としては、『中国典故大辞典』(上海辞書出版社)などがある。

文法に関しては、西田太一郎『漢文の語法』(KADOKAWA、校訂新版2023年、1620円)が名著であり、文庫版が昨年刊行された。『漢文の語法』は、江戸期の漢文研究の成果を取り入れていることに特色がある。助字(虚詞)に関する江戸期の優れた研究である大典顕常『文語解』は、索引付きで影印本(汲古書院、1500円)が出版されている。訓読の手法については、古田島洋介・湯城吉信『漢文訓読入門』(明治書院、1500円)が参考になる。漢文は儒学の教養と不可分であり、経書注釈の知識は漢文を読む上で必須である。経書注釈については古勝隆一『中国注疏講義―経書の巻』(法蔵館、2022年、1800円)が良い手引きとなる。漢詩については、「唐詩の助字」を収録する小川環樹『唐詩概説』(岩波書店、2005年)が入り口となろうが、残念ながら品切れなので古書を入手したい。

(地域文化研究/国文・漢文学)

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