HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報655号(2024年6月 3日)

教養学部報

第655号 外部公開

<時に沿って> ワーク(スタディ)ライフバランスとの向き合い

谷崎祐太

image655-4-1.jpg こんにちは。四月一日に総合文化研究科准教授に着任しました谷崎祐太と申します。今後、甲状腺ホルモンの造血に対する制御系について研究を進めていきます。まず、簡単に経歴を紹介させて頂きます。私は早稲田大学高等学院から早稲田大学に進学した後、同大学大学院にて博士学位を取得しました。早稲田大学で助手を経て米国国立衛生研究所(NIH)で七年間の研究留学生活を送った後、本年四月に本大学に着任いたしました。私は大学附属高校に通っていた為に大学の研究室での生活の一部を体験する機会に恵まれました。これが学術の道を志すきっかけとなりました。このような経験から若手に対して科学の楽しさを伝えられる機会を本学で創出できればと考えております。

 具体的な研究の内容について少し触れさせて頂きます。学部学生の頃から一貫してモデル動物を利用したホルモンの機能研究に従事してきました。近年は特にオタマジャクシの変態をヒト後胚発生期のモデルとすることで従来のモデルでは解明できなかった甲状腺ホルモン機能の課題について解き明かそうとしています。甲状腺ホルモンは特に出生期に一過性に血中濃度が上昇し、様々な組織・器官を大人型へと変化させます。このシグナルが破綻すると身体に様々な影響を及ぼすことから百年以上研究が進められてきました。しかし、血球を含め様々な組織・器官がどのようなメカニズムで大人型になるのかは未だ分かっていないことが沢山あります。その一つの要因が母体です。哺乳類胎児は母体の影響を色濃く受けるために、結果の解釈に困難が生じます。一方で、オタマジャクシは母体の影響を受ける事なく甲状腺ホルモンに応答して変態し、身体の組織・器官を大人型へと作り変えます。このユニークなモデルを活用することで長年の課題であった甲状腺ホルモンの造血に対する作用機序を明らかにしようとしております。独創的、かつ汎用性のある研究を駒場から発信していきたいと意気込んでおります。

 さて、このような場でなければ中々プライベートな話をする機会がないのでプライベートについてもご紹介させて頂きます。私は博士課程在学中に結婚する選択をし、子供にも恵まれ、子育てしながらの博士課程生活を送りました。学位取得後、メリーランド州にあるNIHに研究留学が決まった際には子供が一人増え四人での米国移住となりました。四人での移住は特に費用面で大変でしたが、幸い妻も現地で就職先が決まり、なんとか子育てをしながらの留学生活を送ることができました。さらには、現地でもう一人子供に恵まれ五人家族となりました。ポスドクとしては比較的子供の多い生活となりましたが、嬉しいことに子供が様々な友人を介して私自身の人脈を形成してくれました。おかげで研究留学だけでは触れあうことのない層の友人に恵まれたり、子供の友人の親と共同研究に発展する機会があったりと、中身の濃い留学生活を送ることができました。何を伝えたいかと言いますと、ポスドクはトレーニング期間の印象が強いと思いますが、各自が自分にあった方法でプライベートも充実させていけるものと思います。実際、私は無駄な実験をしないように必死に時間の節約に努めました。昔から博士課程、ポスドクの不遇については騒がれていますが、研究者といった未知の事象に対して自身で切り開いていく魅力的な職業に対して悲観的にならないで貰いたいと思います。学生達には研究を通して自身が何者であるのかしっかりと説明できるような基礎能力をこの大学生活で身に付けて貰いたいと思いますし、そのお手伝いをできればと考えております。そして、次世代の研究者が誕生することを願っております。

(生命環境科学/生物)

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