HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報655号(2024年6月 3日)

教養学部報

第655号 外部公開

<時に沿って> 駒場にもどって

酒井拓史

image655-4-4.jpg 四月に数理科学研究科に着任した酒井拓史と申します。私は和歌山の出身で、東京大学入学とともに上京し、理科一類・理学部数学科・大学院数理科学研究科修士課程の六年間を学生として駒場で過ごましました。そして名古屋大学で博士号を取得した後に、神戸大学で十六年間勤め、二十二年ぶりに駒場にもどってきました。専門は(公理的)集合論という数学の一分野で、数学に現れる無限について研究をしています。

 二十二年ぶりにもどった駒場キャンパスには、私の学生時代からほとんど変わっていないところと、大きく変わったところがあります。学生時代によく授業を受けた、キャンパス西側のエリアと数理科学研究科棟はほとんど変わっていません。また銀杏並木や駒場グラウンドの桜もほぼ当時のままで、散歩していると学生時代がよく思い出されます。大学入学時にクラスの友人と駒場グランドで花見をしたのをよく覚えていますが、今年の桜もとてもきれいでした。一方で東側のエリア、特に大学生協・駒場寮・体育館があったあたりは随分ときれいになって、現代的でとても気持ちのよい空間になっています。その付近を歩いていると、独特の雰囲気を醸していた駒場寮や、その強制執行のときの物々しさを思い出すこともあり、時の流れを感じます。

 私が集合論に興味を持つようになったのも駒場の学生時代です。数学科三年生の輪講で、難波完爾先生が提示された『Set Theory』(Tho­mas Jech著)を読みましたが、そこにゲーデルによる連続体仮説の無矛盾性証明が書かれていました。最初は何をやっているのかよく分かりませんでしたが、何度も読み返したり頭の中で反芻しているうちに証明の筋やアイデアが分かるようになりました。証明が分かったと思えたときに、当時住んでいた明大前のアパートで、「面白いなあ」としみじみ感じたことをよく覚えています。これが集合論の研究を志す一番のきっかけになりました。また、残念ながら難波先生は私の学部卒業と同時に退官され、大学院で指導していただくことはかないませんでしたが、難波先生が発見された難波強制法とそれに関わる難波組み合わせ論は、私が研究で最もよく使う道具立ての一つになっています。
さて、四月に数理科学研究科に着任し、数学科の授業と学生セミナーをすでに数回担当しましたが、学生さんたちの優秀さと積極性に少し驚いています。先日の授業でも、駆け足気味に話してしまったかなと私は思っていましたが、あとで学生さんたちに聞くと、「もう少し速くても大丈夫」との頼もしい返答をもらいました。また、本質をついた質問をいくつかもらいました。これから、このような学生さんたちに授業をし、一緒に研究をすることができると思うと、楽しみでもありますし、身が引き締まる思いでもあります。私の授業やセミナーをきっかけに、「面白いなあ」としみじみ感じるものを学生さんたちが見つけられればいいなと思っています。また、学生さんたちに刺激を与えられるような研究を、私自身がしていきたいと思っています。

 どうぞよろしくお願いいたします。

(数理科学研究科)

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