教養学部報
第655号
<時に沿って> 知ることと行うこと
筒井和詩
二〇二四年四月より、広域科学専攻の助教に着任しました筒井和詩です。専門は行動科学で、特に集団の相互作用的な振る舞いに興味をもって研究を行っています。広域科学専攻で学位を取得後、名古屋での五年間のポスドク・教員生活を経て、このたび駒場に戻ってきました。ここに来る前は名古屋大学大学院情報学研究科および高等研究院で人工知能(AI)や生物の群れ行動について研究していたので、再び身体運動を研究することになり、懐かしい気持ちです。
幼い頃から身体を動かすことが好きだった私は、小・中学校では野球に、高校・大学ではサッカーに明け暮れました。将来はメジャーリーガーになると言い続けていたのに、ある日「やっぱりジョカトーレ(イタリア語でサッカー選手の意味)になるわ」と言ったときには多くの人に驚かれ、反対されもしましたが、迷いはありませんでした。今思うと、敵・味方がフィールドの中で入り乱れながら競争・協調する、そんなサッカーの複雑な側面に惹かれていたのかもしれません。結局、ジョカトーレどころか同級生にさえ手も足も出ず、たくさんの悔しい思いをしましたが、「どうすればみんなよりも早く上達できるのか」を考え続けた日々は、今も私を支えてくれているように思います。
スポーツでは「知ったつもりになっても、いざ行ってみると上手にできない」ということがよくあります。一方で、良い選手が必ずしも良い指導者になるとは限らない、という例からもわかるように「行うことはできるのに、他人に上手く説明することができない」ということもよくあります。私自身、学部時代の教育実習で体育授業中にある学生から受けた「どうすれば先生のように上手くできますか?」という質問に的確に答えられなかった経験があります。このようにスポーツ・身体運動の世界において「知ること」と「行うこと」の間に隔たりがあることはよく知られていますが、この隔たりを少しでも埋めたい、その一心で駒場の身体運動科学研究室を訪れ、五年間「理論」と「実践」の行き来を繰り返しました。
あれから十数年、今ならあのときの学生に上手く伝えられるだろうか、そんなことを考えながら駒場の地に立っています。教育に携わることの責任の重さは常々感じていますが、知ることと行うこと、そしてその双方を行き来する機会を少しでも多く提供できるよう、そして同時に私自身の理解もさらに深まるよう、教育や研究に取り組んでいきたいと考えています。これからどうぞよろしくお願いいたします。
(生命環境科学/スポーツ・身体運動)
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