HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報655号(2024年6月 3日)

教養学部報

第655号 外部公開

<時に沿って> 苦手から専門家へ

新谷里美

image655-5-4.jpg 二〇二一年九月に国際社会科学専攻に助教として着任いたしました、新谷里美と申します。二〇二四年四月より教養学部の授業を担当いたします。

 私の専門は国際法です。「国際法」は法学の中でもなじみの薄い学問だと思います。大学や学会の関係者ではない方とお話しすると、まず伝わりません。そもそも聞き取ってもらえないことも多々あります。「裁縫の先生なんですか?」と言われたこともあります。さらに詳しく言うと、私の専門は国際投資法です。国際投資法は、世界各地で投資活動を行う企業を保護することによって投資を促進するために各国が結ぶ条約を主に研究する学問分野なのですが、国際投資法は国際法の中でもさらになじみが薄い分野であるといえるでしょう。「投資」という語が入っていますので、「なにか儲かる話教えてくださいよ」と言われるのが常です。

 今では法学の一分野である国際法を専門として研究をおこなっている私ですが、かつては法学が苦手だと思い込んでいた時がありました。私は東京大学出身ですが、前期課程の時には文科Ⅲ類だったこともあり、徹底的に法学の授業を避けて時間割を組んでいました。ですがついに法学を避けて通れなくなる時が来ました。進学した教養学科総合社会科学分科国際関係論コースでは国際法が必修科目であり、三年生のSセメスターに必ず履修しなければなりませんでした。東京大学入学時より国際関係論コースへの進学を希望していましたが、なんとなく「国際政治を専門的にやっていくのだろうな」と思っていました。しかし実際に進学して国際政治の授業を履修してみても、なんとなく自分にはしっくりきませんでした。そんな状態で受けたのが西村弓先生の国際法の授業でした。西村先生の授業を受けて頭の中が「ストン」と整理されたような感覚になり、「これだ、これで生きていこう」と思い、今に至ります。

 では自分の原点はそこかと言われれば、考え直してみると法学は苦手だと思い込んでいた時期があるだけで、もっと昔から法学に関心を抱いていたような気がします。私は中高一貫の学校に通っていたので高校受験がなく、中学三年生の時に時間に余裕があるからと、中学卒業論文なるレポート課題を課されました。この時私が選んだテーマは「日本の難民問題」。日本における難民認定率が非常に低いことを取り上げ、その理由と問題点を調べてレポートにまとめました。「より良い社会にするためにはどうすればいいのか」。考え直してみると、その疑問が自分の原点だったのだろうなと思います。

 ロシアによるウクライナ侵攻やガザ地区での紛争など、昨今の国際法はその役割を再考する必要性に迫られています。「より良い社会にするためにはどうすればよいのか」。常に原点に立ち返りながら、自分にできる形で「より良い社会」を目指していくための一助となれるよう日々精進していきたいです。

(国際社会科学/法・政治)

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