HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報656号(2024年7月 1日)

教養学部報

第656号 外部公開

<時に沿って> 不安から世界へ

大川 翔

image656-4-2.jpg 二〇二四年四月に総合文化研究科広域科学専攻に着任しました、大川翔と申します。臨床心理学を専門とし、社交不安症や子どもの不安症といった精神疾患の特徴およびその支援方法に関する研究をしています。また研究者として活動する傍ら、臨床心理士・公認心理師として、臨床現場で精神疾患を持つ方々への支援にも携わっています。

 私が臨床心理学に興味を持ち、臨床と研究の両方の道を選んだのは大学三年生の時に社交不安症という精神疾患を知ったことがきっかけです。社交不安症とは、人と話す、人前に出るなどの社会的状況について強い不安を感じ、日常生活に支障をきたす精神疾患です。私自身も人見知りで、対人場面で不安を感じることが多かったため、「なぜ不安になるのだろう?」「どうやったら治るのだろう?」という疑問を持ち、臨床心理学の研究と実践を仕事とする道に進むことに決めました。現在は、研究者として精神疾患やその支援法に関する理解を深め、研究の成果を、臨床家として社会に還元していくことにとてもやりがいを感じています。

 不安症に対する心理的支援はまだ一般的ではありません。不安症の方に支援を提供する中で小さい頃から不安を抱えていたにもかかわらず、支援を受けることがないまま苦痛に耐え続け、辛い生活を送ってきたという話をよく聞きます。不安症発症のピークは児童・思春期ですが、それにもかかわらず、大人になってから支援を受けに来る人が多いとされています。不安症状に苦しみ、社会的な関わりを避けることで失った時間は取り戻すことができません。今は少しでも早い段階で不安の問題を解決し、苦しい時間を減らすことに寄与するため、子どもの不安症に対する支援の研究を積極的に進めています。子どもの不安症に対する心理的支援は歴史が浅く、日本ではあまり普及していません。不安の問題は不登校などの社会的問題とも密接に絡むため、子どもの不安に対する支援の研究を進め、心理的支援を普及させていくことはとても重要な課題だと考えています。

 現職に就く前は、日本学術振興会の海外特別研究員制度で、英国のオックスフォード大学実験心理学研究科で客員研究員として活動していました。元々、心理学の研究は、進めていけばいくほど自分の世界が広がる興味深い分野だと考えていました。日本でも論文や著書、研究発表を通して世界中の研究者と繋がっていく感覚がありましたが、英国で研究し様々な国の研究者と関わる中で、その感覚を肌で感じることができました。英国で学んだ知見や経験を活かし、人見知りで消極的だった私の世界を広げてくれた心理学と研究の魅力を発信していきたいと考えています。論文や著書を読むだけでは終わらず、そこから人や社会とのつながりを見つけていく楽しさが心理学の研究にはあると思います。まだまだ研究を始めたての若輩者ですが、これからも心理学の研究を続け、その楽しさを学生にも伝えていければと考えています。

(生命環境科学/心理・教育学)

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