HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報657号(2024年10月 1日)

教養学部報

第657号 外部公開

楽観的になれば先延ばし癖は改善する!?

柏倉沙耶・開 一夫

 先延ばしをすると、幸福度が下がってストレスは増大し、健康は損なわれ学業成績は低下する......従来の研究から、先延ばしが私たちの日常生活に深く蔓延り深刻な影響を与えることが示されてきました。そのため、先延ばしを引き起こす先行要因が数多くの先行研究によって検証され、先延ばし癖のある人は一貫して「未来を軽視する傾向」があることが示されてきました。では、一体なぜ先延ばし癖のある人たちは未来を軽視するのでしょうか。

 今回、私たちの研究により「未来を〝楽観視〟できていないから未来を軽視して先延ばしをしてしまうのでは?」という可能性が示唆されました。

 直感的には「なんとかなるだろう......と楽観的に考えているから先延ばしをしてしまうのでは?」と感じるかもしれません。しかし、今回の結果はその予想を裏切るものとなりました。

 このような予想外の結果が得られたのは、本研究で「時系列的ストレス観」「時系列的幸福観」という新たな指標を導入し、より潜在的な楽観性の影響があぶりだされたからだと考えらます。本研究で導入した「時系列的ストレス観」「時系列的幸福観」は、過去・現在・未来にわたる様々な時間軸におけるストレスと幸福度を測定し時系列順に並べたものです。

 この新指標をクラスタリング分析で類型化したところ、「時系列的ストレス観」は、

  • 下降型(descending) 未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)
  • 上昇型(ascending) 未来にいくにつれてストレスが増える
  • V字型(V-shape) 今が一番ストレスが低くて、そこから離れるにつれてストレスが増える
  • への字型(skewed mountain) 過去のある一点でストレスが一番高く、そこから未来にいくにつれてストレスは減る

の四種類に分類されることがわかりました(図A、B)。

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図 「時系列的ストレス観」の類型と先延ばしとの関係
(A)時系列的ストレス観の類型。(B)横軸はストレスをたずねた際の時間軸(「過去10年」「過去1年」「過去1ヶ月」「過去1日」「今この瞬間」「明日」「この先1ヶ月」「この先1年」「この先10年」。質問例:「過去10年間でどれくらいストレスを感じましたか?」「今この瞬間どれくらい幸せを感じていますか?」「この先1年でどれくらいストレスを感じると思いますか?」)、縦軸はストレスレベルを示す。(C)深刻な先延ばし癖のある群(濃い青、先延ばしスコア上位25%)、軽度の先延ばし癖のある群(薄い青、先延ばしスコア下位25%)、中程度の先延ばし癖のある群(中間の青,先延ばしスコア中位50%)の比率。(*p<.05、**p<.01、***p<.001)

 そして、この中でも特に「未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)」と感じている「下降型」グループは深刻な先延ばし癖を持つ人の割合が低いことが明らかになりました(図C)。「時系列的幸福観」については、下降型(descending)、上昇型(ascending)、V字型(V-shape)、平坦型(flat、「どの時間軸においても幸福度が一定」)に分類され、先延ばし癖との間に有意な関係は見られませんでした。

 これらの結果は、「今よりも未来のストレスが増えることはない」という未来に対する楽観的な見方を持つことが深刻な先延ばし癖を減少させる可能性を示唆しています。ここで言う「楽観性」は「なんとかなるだろう......と無理やり言い聞かせて思い込もうとする」類のものではなく、あくまでも時系列的ストレス観を測定する中で自然と浮かび上がってくる楽観性のことです。

 先延ばし癖を改善するために、自然体の楽観性を体得し、未来に希望を持てるようにサポートする方法を探求していくことが今後のテーマです。

(広域システム科学)
(広域システム科学/情報・図形)

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