HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報659号(2024年12月 2日)

教養学部報

第659号 外部公開

専門研究とアカデミアの閉鎖性をどのように乗り越えるか

梶谷真司

 「教養」というのは多義的であるが、ここでは大まかに「多様な知の総合」としておこう。私が考えたいのは、そうした様々な知をどのようにつなげるかという問題である。そのさい背後に二つの問題があることを踏まえておく必要がある。それは、「専門研究の閉鎖性」(専門分野間の乖離)と「アカデミアの閉鎖性」(研究と社会の乖離)である。

 専門研究の閉鎖性には、おそらく制度、人間関係、メンタリティという三つの側面がある。まず制度の側面であるが、研究者はそれぞれの専門分野での評価が重要であり、したがって研究成果(論文や書物)の発信者も受信者も、当然研究者になり、研究者は専門のコミュニティの中に閉じていく。その結果、人間関係もおのずと専門的に近い人が多くなり、それ以外の人との付き合いが少なくなる。また専門家は専門以外のことには口出しをしないメンタリティの人が少なくない。これは専門家としてのモラルや責任感でもあるが、それが専門研究の閉鎖性につながる面も否定できない。

 このように専門が異なる人どうしが関わり合わないのなら、その人たちがアカデミアの外の人とつながることは、さらにありそうにない。一般的に言えば、専門化が進むと、いろんな意味で閉鎖的になりやすい。

 しかし専門化することと閉鎖的になることは、本来別である。専門化しつつ、他の分野や社会とつながっていることは可能だろう。学際的研究というのは、まさにこうした専門の壁を乗り越えるためにあるわけだが、これがなかなか難しい。研究全体としては学際的(inter+discipline)ではあっても、個々の研究者は自分の領域を守り、あくまで専門家として関わると、自分の専門の中にとどまり外へは出ない。既存の学問(discipline)はそのまま維持されるので、新しい枠組みができるわけではない。

 また近年、研究者だけでは対処できない現実の問題に対して、専門家(アカデミア)と社会の中の様々な関係者(非アカデミア)が協働するようになっている。これを超学際的(trans-disciplinary)研究と呼ぶ。しかし、ここでも各々の立場の人が自分の領分を守りつつ、あくまでその立場の人として関わり、その中から出なければ、研究全体としてはアカデミアの枠を超えて関わりあうが、個々の参加者はやはり自分の領分の中にとどまり、アカデミアの内と外の区別はそのまま維持されやすい。

 以上のことから分かるように、学際も超学際も、それだけで学問やアカデミアが外部に開かれるようにはならない。ではどうすればよいのだろうか。

 私が思うに、そうした開放性のためには、専門家や研究者としての立場をいったん外してみるとよい。そのさい重要なのは、一緒に作業する(誰の専門でもない)場ないしテーマを共有することである。そして役割や立場を固定せず、専門性が生かせる時は生かすという柔軟な態度が必要なのである。

(超域文化科学/ドイツ語)

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