HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報659号(2024年12月 2日)

教養学部報

第659号 外部公開

<時に沿って> 駒場で学んだこと

金子亜美

 二〇二四年九月に地域文化研究専攻の中南米小地域講座に着任いたしました、金子亜美と申します。前期課程の学生の皆さんとは、スペイン語のクラスでお会いするかもしれません。後期課程と大学院の皆さんとは、中南米の植民地史に関する研究や、先住民の人々のキリスト教化に関する文化人類学的研究を取り上げていきたいと考えています。

 学部では、東京芸術大学の音楽学部にある楽理科に所属していました。高校のときに「西洋音楽史を学びたい」というはっきりとした展望をもっていたための進路選択でした。実際、芸大では学生や先生方の素晴らしい演奏や音楽作品、美術学部の方々の作品に触れる機会に恵まれました。芸大は上野公園のなかにあったので、その時々で開催される美術展示や博物館展示も楽しみました。

 楽理科では、日本や世界の諸地域、諸民族の音楽に触れる機会も充実しており、インド音楽やバリ音楽の授業も受けました。そのなかで「植民地期ラテンアメリカのバロック音楽」について少々耳にしたこともありましたが、当時スペイン語やポルトガル語の使えなかった私には、到底手の届かない世界のように思えました。

 駒場とのご縁の始まりは修士課程入学です。諸民族、諸地域の社会文化に対して募らせた興味関心から、超域の文化人類学研究室の門を叩きました。

 勉強不足だった私にとって修士課程での学びはとてもハードなもので、周りに多くの迷惑をかけましたが、研究室で過ごした日々は多くの喜びと驚きに満ちたものでした。授業で出会う文献を読んで目から鱗が落ちる思いを何度もしましたし、東大の数々の図書館の充実ぶりに心を躍らせ続けたものです。

 何よりも私が絶えず驚嘆していたのは、駒場では誰もが私の話すことに耳を傾け、私の書くものを丁寧に読んでくれるということでした。先生方は、一字一句まで私の文章を読んで、そこにある論理らしきものを読み解いて、そのはるか先まで見通してくれる人たちでした。院生の仲間も、私が本当は何を言いたいのか、それは先人の誰がすでに思考してきたことなのかを、ともに考えてくれました。考えてみればそうした態度は、「発せられた言葉を、それが発せられた文脈に沿って読む」、「これまでなされてきた対話に耳を傾けた上で、その向こうに見える景色を少しだけのぞこうとする」といった、学問に求められる知的誠実さに他なりません。駒場の人たちは、まさにそれを私に対して向けてくれることによって、その大切さを教えてくれていたのだと思います。

 その後様々なご縁があり、植民地時代のスペイン領南米の辺境地域に設置され、先住民の統治やキリスト教化を担ったイエズス会ミッションを研究するようになりました。「植民地期ラテンアメリカのバロック音楽」として知られるものの歴史的含意も関心にあります。駒場の豊かな知的環境でまた勉強できることを、心から嬉しく思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(地域文化研究/スペイン語)

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