教養学部報
第659号
<時に沿って> 出会いに恵まれ、運命は巡る
橘高俊一郎
二〇二四年九月に総合文化研究科広域科学専攻の准教授として着任しました橘高俊一郎と申します。物性物理学を専門としており、量子力学的効果が顕著になる極低温環境において、様々な物質の性質を実験的に調べています。特に、従来の理論では説明できないエキゾチックな超伝導の研究に力を入れてきました。独自に開発した実験装置や測定手法を用いて、先駆的かつ独創的なアプローチで、新奇な量子現象の発見やそのメカニズム解明を目指しています。
私は岡山県井原市の出身で、山や田畑に囲まれた田舎で育ちました。駒場キャンパスの緑豊かな景観は、時折、東京にいながら故郷を懐かしく思い出させてくれます。幼少期は、理科よりも数学が好きでしたが、二〇〇一年に京都大学理学部に進学し、数学を駆使して自然現象を解き明かす物理学に次第に魅了されるようになりました。超伝導研究の世界に飛び込んだのは、三回生の課題演習で取り組んだ高温超伝導の実験がきっかけです。京都大学の固体量子物性研究室では、最前線で活躍される先輩方に触発され、自然な流れでアカデミックの道へと進みました。
博士号取得後は、東京大学物性研究所の榊原研究室に助教として採用され、当時発展途上にあった磁場角度分解比熱測定による重い電子系超伝導体のギャップ構造の研究に没頭しました。この過程で、幸運にも超伝導研究における長年の定説を覆す発見に恵まれ、前例のないオリジナルの実験手法を開発・高度化することの重要性を強く実感しました。この経験が、現在の私の研究の礎となっています。助教としての十年の任期を終えた後、中央大学理工学部の准教授として研究室を立ち上げ、学生やスタッフと共にオリジナルの実験手法を更に発展させながら研究を進めてきました。これらの成果は、周囲の方々や環境に恵まれたからこそ成し遂げられたものです。駒場でも、新たな出会いを大切にして、様々な問題にチャレンジしていきたいと意気込んでいます。
物性研究所での助教時代は、研究に没頭する毎日でしたが、中央大学ではコロナ禍の影響もあり、オンデマンド・ハイブリッド・対面など多様な形式で年間七~九コマの講義を担当してきました。今後は東京大学教養学部で教育に携わることになり、新たに身が引き締まる思いです。実は、私の祖父は岡山大学教養部物理学教室の教授を務め、物性研究と教育に情熱を注いでいました。私が一歳のときに他界したため、直接の思い出はほとんどありませんが、祖父が亡くなって四十年後に、私が東京大学教養学部で物性研究と教育に携わる機会を得たことに強い運命を感じます。祖父に倣い、私も教育と研究に情熱を注ぎ続けていく所存です。まだまだ至らない点も多いかと思いますが、どうぞ温かく見守っていただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
(相関基礎科学/物理)
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