HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報660号(2025年1月 7日)

教養学部報

第660号 外部公開

<時に沿って> 温故知新

鈴木健太

image660-6-3.png 二〇二四年九月に総合文化研究科広域科学専攻に着任しました鈴木健太と申します。理論物理学を専門とし、特に量子重力理論に関わる場の理論や弦理論に関する研究をしています。量子重力理論は、我々の宇宙の始まりを説明したり、ブラックホールの内側の物理学を記述したりすると期待されていますが、いまだに未完の理論です。

 私が物理学に興味を持ち始めた最初のきっかけは、二〇〇二年の小柴昌俊先生のノーベル物理学賞受賞だったと記憶しています。小柴先生のノーベル物理学賞は、現代物理学の枠組みにおける最小単位の素粒子の一つである「ニュートリノ」と呼ばれる粒子を、岐阜県神岡鉱山地下に埋められた水槽「カミオカンデ」で初めて検出したというものでした(このノーベル賞受賞を記念して、東京大学本郷キャンパスの理学部1号館には「小柴ホール」が設置されました)。当時中学生だった私は、このノーベル物理学賞の記事を読んで、素粒子というものを実際に地上で検出できるという事実にひどく感銘を受けるとともに、素粒子や、それと密接に関係している我々の宇宙の起源などにとても興味を持ち始めました。のちに大学で物理学を専攻する中で、自分は実験には向いていないということに気づき、理論を専門とするようになりましたが、中学の時に感じた素粒子や宇宙の起源への興味は今も変わらず持ち続けています。

 大学院入学に際して、私は日本国内では希望する研究室に入ることができなかったため、アメリカの大学院へ進学することにしました。入学前は私の周りでは誰もアメリカへ留学しようと考えている知り合いは居らず、精神的にも非常に苦しい思いをしましたが、結果的には最善の選択をすることができたと今は考えています。アメリカでは幸いにも、非常に親切な指導教官と、気さくな友人たちに恵まれ、物理学に打ち込みながらも、休日はリフレッシュし異国の文化を満喫することができました。大学院では、指導教官の提案に基づいて、現時点での量子重力理論の最も有力候補である弦理論の研究を始めました(A. Einsteinが二十世紀に提唱した一般相対性理論は、多くの実験・観測でその妥当性が確かめられている理論ですが、非常に高エネルギーかつ微視的スケールでは破綻すると考えられており、その問題点を解消しようとする理論が量子重力理論です)。

 その後、弦理論の派生であるゲージ・重力対応と呼ばれるものを研究し、今もその分野の研究を続けています。アメリカで過ごした五年間は、私の人生の中で最も充実していた時期であり、その時に出会った多くの人々との交流は今も続いています。駒場では、自分が子供の頃に感じた興味やこれまでに出会ってきた人達とのネットワークを大切にしながらも、新たな出会いを通してさらに自身の知見を広げ、研究者として、教育者としてさらに精進していきたいと考えています。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

(相関基礎科学/物理)

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