HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報661号(2025年2月 3日)

教養学部報

第661号 外部公開

<送る言葉> 深津晋先生を送る

鳥井寿夫

 深津先生のご専門は半導体表面・界面の結晶工学を基盤とした凝縮系物理学と光量子物理学で、特にⅣ族元素をベースにした新規半導体量子構造の構築と分光学的手法による量子物性探索で先駆的な研究を推進されました。また近年では、量子通信、量子計算、ゴーストイメージングなどの分野で独創的な研究を展開されました。深津先生の指導の下、約五〇名の学生が学位を取得しました。

 量子力学では、光は波と粒子の二重性をもつ量子としてふるまいます。深津先生には厳格で怖いというイメージもあれば、寛容でお茶目なイメージもあり、まさしく量子のようにとらえどころのない二重性をお持ちで、それが深津先生の魅力でした。

 二重性と言えば、深津先生は物理学者であると同時に才筆でもあります。教養学部報二〇一三年二月号の1面に掲載された記事「自分の才能が知りたい」は、学生に向けた愛情とユーモア溢れる深い論考で、二〇一六年に出版された『東京大学「教養学部報」精選集──「自分の才能が知りたい」ほか教養に関する論考』にも収録され、さらに副題にも採用されました。私も含めて、この記事に救われた読者は多かったことと思います。

 この記事に象徴されるように、深津先生は常に学生を大切にされていました。深津先生が一九九四年に駒場に赴任されたとき、私は修士一年の学生でした。大変勿体ないことに、別の研究室の私は深津先生の大学院の授業を最初の数回しか出席しませんでした(それでも「真空装置をベーキングするとパン屋と同じ匂いがする」という雑談はよく覚えています)。そして学期が終るころ、深津先生は何と私の実験室に電話をかけてきて「単位はいりますか」と聞くのです。こんな先生いるでしょうか。深津先生を慕って基礎科学科(現在は統合自然科学科)に進学した学生も多いと聞きます。

 深津先生の愛情は高校生にも向けられていました。高校生が参加する物理オリンピック日本委員会委員を長年務められ、二〇二三年に開催された国際物理オリンピック日本大会の科学(出題)委員会の実験部会長も務められました。

 深津先生のご退職によって、駒場は偉大なメンターを失うことになりますが、学生を大切にする先生の精神を守っていきたいと思っています。

(相関基礎科学/物理)

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