HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報661号(2025年2月 3日)

教養学部報

第661号 外部公開

<時に沿って> 海外研究生活から駒場へ

田崎 亮

image661-7-3.png はじめまして。 二〇二四年十月一日に、総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系の助教に着任しました田崎亮と申します。専門は天文学、特に地球のような惑星の形成過程を探る研究を行っています。惑星の形成は、大きさ1マイクロメートル(千分の一ミリ)にも満たない固体微粒子同士が分子間力で付着していくことから始まります。この分子間力というミクロな力による固体の凝集現象が、その後どのような物理過程を経て、重力でまとまった半径数千キロメートル以上のガスや固体の塊(惑星)に至るのか、その詳しい過程は今もなお謎に包まれています。

 私が惑星形成という分野に出会ったのは学部四年生の頃でした。惑星形成環境で微粒子が凝集していく過程には数多くの謎が残されていること、そして新たな望遠鏡の登場によってこの分野が大きく盛り上がりつつあることを知り、大学院から惑星形成の研究室で本格的に研究を始めました。京都で学位を取得した後、ポスドクとして仙台、アムステルダムなどを渡り歩き、駒場に来る直前はフランスアルプスの麓に位置するグルノーブルという町で研究をしておりました。

 海外の研究機関で働いていると、日本とは違った独特な日常の出来事が数多く起こります。例えば、ある日、研究所の廊下に煙が立ち込め、火災警報音が鳴りました。火事かと思い、慌ててノートPCを抱えて外に避難したのですが、これは事前告知なしの発煙筒を使った避難訓練でした。日本でよくある予告型避難訓練に慣れていた私には新鮮な訓練でした。一方で、不安を感じる事件も経験しました。ある連休明けの朝、研究所に着くと、たくさんの居室のドアが何者かによって破壊されていました。残念ながらこれは訓練ではなく、本当の事件でした。私の部屋はドアの鍵が壊された程度だったのですが、中には漫画のようにドアが真二つに破壊された部屋もありました。この事件を受けて研究所の警備を強化することになったのですが、その対応策として、なんと(職員を含め)土日祝日の建物への出入りが当面禁止されることになりました。警備を強化するのは良いとしても、よくこんな案が通ったものだと驚かされました。海外での生活では、大変なことも色々とありましたが、研究面では共同研究の輪が広がったことが大きな財産です。また、週末や休暇を利用してフランスやスイスのアルプスをハイキングしたり、観光地ではない小さな街を散策してのんびり過ごしたりと、非常に充実した日々を過ごしました。

 ヨーロッパでの四年間は、私にとって新たな視点や経験を得る貴重な時間でした。そして今、縁あって駒場という若さあふれる学びの場に身を置けることに感謝しています。学生の皆さんとの交流を通じて、私自身もさらに成長できるよう努力していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(広域システム科学/宇宙地球)

第661号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報