HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報661号(2025年2月 3日)

教養学部報

第661号 外部公開

<時に沿って> 数学とともに歩んだ日々

榎園 誠

 二〇二四年十月より、東京大学大学院数理科学研究科に助教として着任いたしました。簡単に自己紹介をさせていただきます。私は大阪出身で、大阪大学にて学部から博士課程まで学びました。その後、関東に移り、東京理科大学や立教大学で勤務しておりました。東京大学に所属するのは初めてですが、東京理科大学に着任した一年目の頃、同世代の研究者とともに駒場キャンパスで週に一度勉強会をしていたことがあり、少なからず縁を感じています。

 私の学びの原点は、大阪での高校生活に遡ります。高校二年生までは勉強よりも部活動に打ち込む日々で、将来を深く考えることはありませんでした。周囲には大学進学を目指す人も少なく、私自身も進学についてはほとんど考えていませんでした。一方で、数学という科目にだけは独特の魅力を感じていました。他の科目とは異なる「不思議さ」とでも言えるような感覚があり、「数学とは一体何なのだろう」と漠然と思うことがありました。

 高校三年生の頃、国公立大学の経済的な利点に気づき、初めて受験勉強を本格的に始めました。その過程で勉強そのものが楽しくなり、とりわけ理系科目に夢中になりました。数学科と物理学科のどちらに進むか迷いましたが、最終的に大阪大学理学部数学科に進学しました。大学では専門科目を幅広く履修しましたが、自発的に高度な数学を先取りして学ぶようなことは少なく、授業を中心に学んでいました。よく「数学科で優秀な学生は、授業にはあまり出席せず独学で進める」と言われますが、私はその真逆のタイプでした。

 代数幾何学に興味を持ったのは、学部四年で研究室に配属されてからのことです。それ以前は分野そのものについて深く知ることはなく、代数学や幾何学に対する興味から研究室を選びました。実際に学び始めてみるとその奥深さに魅了され、大学院に進学を決意しました。数学者を志そうと思ったのは、学部四年から修士一年にかけての頃です。それまでは、数学者という職業について考えたことすらありませんでした。

 その後、大阪大学で博士号を取得し、二十七年間住んだ大阪を離れて東京理科大学理工学部数学科に着任しました。当時、代数幾何学を専門とする私と同年代の研究者が東京大学に多く所属しており、駒場キャンパスでのセミナーを通じて親交を深めました。コロナ禍ではセミナーがオンライン形式に移行しましたが、それがかえって地理的制約を超えた交流を可能にし、現在でもオンライン勉強会や共同研究を続けています。

 私の研究は、代数幾何学の中でも代数曲線や代数曲面の退化といった、やや古典的で最近では注目されにくいテーマを中心に行っています。一方で、専門分野を超えて興味を持ったことは積極的に学ぶ性格で、そうした知識が直接研究に役立つことは少ないものの、思いがけない形で結びつくこともあります。例えば、偶然学んだ知識が研究上の重要な発見につながった経験があり、その成功体験から最近では分野を問わず幅広く学ぶことを楽しむようになりました。ただし、こうしたスタイルは、修士論文執筆中の大学院生などにはお勧めできるものではありません。

 このように、自分なりのペースで学びと研究を続けています。どうぞよろしくお願いいたします。

(数理科学研究科)

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