教養学部報
第661号
<時に沿って> 私が研究をする理由
佐々木睦
二〇二四年十月十六日付で、総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の助教に着任しました佐々木睦(ささきあつし)と申します。教養学部のスポーツ・身体運動部会に所属し、主に一、二年生を対象とした身体運動・健康科学実習を担当しております。
私の専門分野は神経科学で、特にヒトの運動制御メカニズムの解明を目指した研究を行っています。具体的には、脳刺激や脊髄刺激、脳波、筋電図などの電気生理学的手法を活用し、運動機能に関する多角的なアプローチを行なっています。二〇二二年三月に本学総合文化研究科にて中澤公孝先生の指導のもと博士号を取得しました。その後、大阪大学基礎工学研究科および米国マイアミ大学医学部で約二年半のポスドク生活を経て、このたび駒場に戻って参りました。離れていた期間はわずか二年半でしたが、久しぶりの駒場、久しぶりの東京での生活に新鮮な喜びを感じながら、充実した日々を過ごしております。
前職のマイアミ大学医学部では、脊髄損傷に関する研究を専門とする世界最大規模の研究所の一つ、The Miami Project to Cure Paralysis(通称 Miami Project)に縁あって所属しておりました。そこでは、大学院生時代に駒場で学んだ電気生理学的手法と、大阪大学基礎工学研究科で培った工学的アプローチを統合し、脊髄損傷に対する新たな神経リハビリテーション法の開発に取り組みました。
Miami Projectには医師や療法士などの医療チーム、エンジニア、異なる専門分野の研究者たちと連携しながら研究を進める体制が整っており、実際の患者さんにもご協力いただきながら研究を行う貴重な経験を得ることができました。それまで患者さんを対象とした本格的な臨床研究の経験がなかった私にとって、研究が誰かの役に立つ瞬間を目の当たりにしたことは、研究者としての大きな転機となりました。特に、研究の効果を直接確認し、それによって患者さんが喜ぶ姿を目にした瞬間は、今でも鮮明に記憶に残っています。この経験が、今後も私が研究を続ける理由であり、モチベーションの源泉になると感じています。
もちろん、研究成果が実生活で目に見える形で役立つようになるまでには、膨大な基礎研究の積み重ねが必要です。実際にMiami Projectで開発に取り組んだ手法には、東大、阪大時代の基礎研究を通じて積み重ねてきた知見が大きな土台となっていました。
まだまだ研究者としては未熟ですが、基礎研究、臨床研究のいずれにおいても、一つひとつの研究が誰かの未来を変える可能性を秘めているという信念を持ち、科学の力を通じて社会に貢献できるよう、これからも励んでいきたいと思います。
(生命環境科学/スポーツ・身体運動)
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