HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報662号(2025年4月 1日)

教養学部報

第662号 外部公開

社会連携講座「AI相利共生未来社会講座」の概要と展望

大関洋平

 人工知能(artificial intelligence, AI)は、機械学習やビッグデータの恩恵を受けて、急速な発展を遂げています。特に、生成AI・大規模言語モデル(large language model, LLM)の登場により、機械翻訳や質問応答など様々なタスクで高い性能を叩き出しています。しかしながら、その高い性能の代償として、「AIが人間の仕事を奪う」や「シンギュラリティ(AIが人間を凌駕する時点)が到来する」の様な議論が一人歩きしてしまい、人間とAIが相互に利益を享受しながら共生するにはどうすれば良いか、という観点が欠けていた様に思います。

 そこで、人間とAIが相利共生する「AI相利共生未来社会」の実現に向けて、東京大学とGoogleは、二〇二四年十一月一日にAI分野の社会連携講座である「AI相利共生未来社会講座(AI Symbiotic Future Society Program)」を東京大学大学院総合文化研究科に設置しました。本社会連携講座の概要として、設置期間は二〇二四年十一月一日から二〇二七年十月三十一日の三年間、経費はGoogleから全面的に出資して頂いています。担当教員は、筆者がディレクター(と言うと聞こえは良いですが実際は裏方)を務めていますが、特任助教一名と秘書一名を雇用する予定になっており、本部産学協創部協創課および総長特任補佐の割澤伸一氏と連携して運営しています。

 また、本社会連携講座の内容として、大別すると研究と教育という二つの目的があります。研究では、Googleの生成AI・LLMであるGeminiやGemmaを活用して、東京大学とGoogleのAI研究者による共同研究を実施する計画になっており、自然言語処理・医療・ロボティクス等の重点領域における研究提案を東京大学で公募し、東京大学とGoogleのAI研究者をマッチングする予定になっています。教育では、GoogleのAI教育コンテンツであるAI EssentialsやGemini Academyを活用して、次世代AI人材を育成し、大学間コンソーシアムや日本リスキリングコンソーシアム等を通して学内外へ展開することを検討しています。特に、Gemini Academyについては、筆者が二〇二四年度Aセメスターに開講した「人文科学ゼミナール(データ分析)」という展開科目において、二〇二四年十二月二十日にGoogleの上原玲氏によるゲスト講義が実施されています。

image662-2-1.png 加えて、本社会連携講座の背景として、東京大学とGoogleは、人間とAIが相利共生する「AI 相利共生未来社会」を実現するため、これまで二〇二〇~二〇二二年に第一期パートナーシップ、二〇二二~二〇二四年に第二期パートナーシップを締結し、AI分野の産学連携を行って来ました。ただ、第一期・第二期パートナーシップでは、様々な取り組みが散発的に実施されて来たため、それらを統合するプラットフォームとして、本社会連携講座が二〇二四~二〇二七年に締結された第三期パートナーシップの一環として設置されました。実は、この社会連携講座というアイデアは、二〇二四年六月十九日に東京大学情報学環福武ホールで開催されたGoogleのプラバッカー・ラガバン氏による講演会の後で、東京大学とGoogleのAI研究者による懇談会が開かれており、そこでの「東京大学には様々なAI研究者がいるが、本郷・駒場・柏など複数のキャンパスに分散しているため、それらを統合する様なプラットフォームが欲しい」という筆者の意見から着想を得ている様です。

 本社会連携講座が、人間とAIが相利共生する「AI相利共生未来社会」の実現に貢献することを期待しています。

(言語情報科学/英語)

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