HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報662号(2025年4月 1日)

教養学部報

第662号 外部公開

辞典案内 2025 英語

石原 剛

【英和辞典】
大学入試の準備など高校レベルでもよく使用される学習英和中辞典は大学レベルの英語学習でも大変重宝する。ただし、単に語義を調べるだけでなく読む辞典として活用するとより楽しい。辞典によっては、語法や類語に関する行き届いた説明や、大規模言語情報のコーパスに基づいた説明が充実していて学ぶことが多い。例えば、中辞典レベルの最新の学習英和辞典『ジーニアス英和中辞典』(第6版)のabilityの項を試みに引いてみよう。将来発揮され得る「潜在能力」を示すことの多いcapacityと「後天的能力」を指すことの多いabilityの違いが簡潔に説明されており、類語の微妙なニュアンスの違いを学ぶ際にも中辞典が役立つことが分かる。同辞典には、「childの複数形は、なぜchildrenなのですか?」といった素朴な疑問に答える英語史のコラムなども掲載されていて、興味が尽きない。英語の入試が終わって学習英和中辞典は卒業という考え方もあるかもしれないが、じっくり読むと意外な発見があるはずなので大切に使い続けてほしい。その上で、大学レベルともなれば、古い語句や専門用語に接する機会も多く、中辞典では太刀打ちできない場合もある。そのようなとき役立つのが英和大辞典だ。下記に挙げた1〜3の辞典は収録項目数の充実した大辞典の定番。4は専門用語も含めできる限り多くの言葉を収録した辞典で翻訳のプロもよく使う定評のある辞典だ。尚、理系は分野ごとに英和大辞典が発行されていることも多く、利用価値については専門の先生の助言を受けると良い。

1.新英和大辞典(竹林ほか編・研究社・2002年第6版・並装18000円)
2.ランダムハウス英和大辞典(小西ほか編・小学館・1993年第2版・14400円)
3.ジーニアス英和大辞典(小西ほか編・大修館・2001年・16500円)
4.リーダーズ英和辞典(高橋ほか編・研究社・2012年第3版・並装10000円)

【英英辞典】
言葉の細かいニュアンスを英語で説明してくれる英英辞典は、英語を日本語に置き換える癖から抜け出すのに重宝する。ただし、いきなり外国語学習者向けではない英英辞典を使いこなすのは難しい。英英辞典を引き慣れていない場合は、まずは学習者向けに編集された5~7のような英英辞典がお勧めだ。収録項目数はある程度絞られるが、丁寧な説明と豊富な用例は英文を書く際に大きな助けとなる。8〜10は項目数の多い一般向けの英英辞典。特に10は北米圏の英語を念頭においた辞典で所謂アメリカ式の綴りに親しんでいる場合は比較的利用しやすい。11はODEと略される定評のある英英辞典。東大生が教養英語の授業で使用する教科書『東大英語リーディング―多元化する世界を英語で読む』(東京大学出版会・2022年)の語義解説にも頻繁に登場する。そして12はOEDと略される文句なしの世界最大の英語辞典。特に古い文献を読む際に重宝する。同じ単語でも言葉の意味は時代によって変化することも多い。OEDでは用例とともに古い語義から新しい語義が網羅されているので、目的の単語が書かれた時代にどのような意味を有していたのか調べるのに大変便利だ。例えば、niceが昔は「愚か者」をも意味する単語であったことが実際の用例とともに掲載されていたりする。東大の学生なら大学図書館のウェブサイトでオンライン版を利用できるので、まだ見たことがない人は一度覗いてみるとよい。

5.Oxford Advanced Learner's Dictionary(OUP・2020年第10版)
6.Longman Dictionary of Contemporary English(Pearson・2014年第6版)
7.Collins COBUILD Advanced Learner's Dictionary(Collins・2023年第10版)
8.Concise Oxford English Dictionary(OUP・2011年第12版)
9.Chambers Dictionary(Chambers・2014年第13版)
10.American Heritage Dictionary of the English Language(Harper Collins・2011年第5版)
11.Oxford Dictionary of English(OUP・2010年第3版)
12.Oxford English Dictionary(OUP・1989年第2版/オンライン版利用可)

【和英辞典】
和英辞典は英語を書く際に便利ではあるが、使い方にはやや注意が必要だ。和英辞典こそしっかり読むことが大切な辞典といえる。例えば、日本語で「新しい」(new)とひとことで言っても、新奇な(novel)、新鮮な(fresh)、最近の(recent)、現代的(modern)といった意味の微妙な違いで、使う英語も変わってくるように、自分の意図する言葉が的確な英語であるか和英辞典をしっかり読んで最適の表現を選ぶことが何より重要だ。その意味で、13は項目数が多いうえに用例が充実しておりお勧めの辞典だ。電子辞書では1とセットで収録されていることも多い。14は語法解説の充実した中辞典サイズの学習者向け和英辞典で類語のニュアンスの微妙な違いも丁寧に解説されており、読む和英辞典としても充実している。

13.新和英大辞典(渡邉ほか編・研究社・2003年第5版・並装18000円)
14.ウィズダム和英辞典(岸野編・三省堂・2019年第3版・3500円)

【コロケーション辞典・類語辞典・その他】
英語を書くための辞典として特にお勧めなのがコロケーション辞典と類語辞典だ。コロケーション辞典は英語における異なる品詞間の自然な結びつきの例を豊富に示してくれて極めて便利。特に15は初版の刊行からかなりの年数が経過したとはいえ38万の用例を誇る信頼できる辞典だ。16も定評のあるコロケーション辞典で、日本の学習者向けに内容を編集した日本語版も出ている。また、英語は繰り返し同じ言葉を用いることを避ける傾向のある言語だ。結果、多くの類語辞典(シソーラス)が出版されている。中でも17、18は英語圏の書店でも必ずと言ってよいほど置いてある定評のある辞典。19はOxford Learner's Thesaurusを日本の学習者向けに編集し直した学習用類語辞典で、解説も充実している。また、英文法や語法の解説書の類はそれこそゴマンとあるが、ここでは定評のある文法・語法の解説書として20と21を挙げておく。英語の文法用語をいきなり理解するのが難しい場合は、定評ある語法辞典の日本語版の21がお勧めだ。

15.新編 英和活用大辞典(市川ほか編・研究社・1995年・特装18000円)
16.Oxford Collocations Dictionary for Students of English(OUP・2009年第2版)/日本語版:小学館 オックスフォード 英語コロケーション辞典(八木監修・小学館・2015年・4800円)
17.Oxford Thesaurus of English(OUP・2009年第3版)
18.Roget's International Thesaurus(Kipfer編・HarperCollins・2019年第8版)
19.小学館 オックスフォード英語類語辞典(田中監修・小学館・2011年・4500円)
20.A Communicative Grammar of English(Leech・Svartvik著・Routledge・2003年第3版)
21.Practical English Usage(Swan著・OUP・2016年第4版)/日本語版:オックスフォード実例現代英語用法辞典(吉田訳・研究社・2018年第4版・6000円)

【電子媒体】
昨今、教室や図書館で紙の辞書を使っている学生を目にすることはあまりない。自宅外では電子辞書やタブレット端末やスマホ、自宅ではダウンロード版やオンライン版の辞典をPCで利用する学生も多い。ここで紹介した辞書の多くは電子媒体での利用も可能なだけでなく、複数の辞典の同時検索や成句・例文検索など電子媒体ならではの機能もあり便利なことも多い。大事なことは、紙版であれ電子版であれ、目的の語義を探すだけで満足するのではなく、他の語義や用法の解説に加え、例文にもしっかり目を通すことだ。ときには目当ての単語の周囲にリストされている言葉も眺めてほしい。派生語や関連語など一つの単語がもつ言葉の世界の拡がりを感じるはずだ。ページを繰る手間もなく目的の単語に瞬時にたどり着いてしまう電子版は便利な一方、目的以外の言葉と「思わぬ出会い」をしにくい場合もある。その意味で電子版と紙版の違いは、ネット書店と実際の本屋さんの違いに似ている。両者の特徴を理解しつつ活用してほしい。

(超域文化科学/英語)

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