教養学部報
第663号
〈後期課程案内〉医学部 国民の健康増進と科学の進歩を目指して
医学系研究科長・医学部長 南學正臣
新入生の皆さん、ご入学おめでとう。
医学は生命現象を明らかにするという学術としての重要性を一方で持ち、他方では人類の福祉に貢献し、疾病の克服を実現するという点で応用科学としても大きな意義を持つ学問です。東京大学医学部の目標は、医学・医療そして生命科学の発展に寄与する人材を育成することです。これまで医学部は、生命科学研究において世界をリードする研究者を輩出し、医療の最前線で活躍し多くの命を救う医師を育て、更に社会医学や健康科学の分野に大きく貢献する人材を育成してきています。このような多様な人材が将来全人的医療を実践し、あるいは創造的な研究を行い、国民の健康寿命の延伸と科学の進歩に寄与することが、我々の夢です。そのために多様な視点と柔軟な思考を持つことが重要であり、専門課程に進む前にリベラルアーツをしっかりと学ぶことがその礎となります。
医学部には、医学科と健康総合科学科があります。医学科ではヒトの生物学、病気の発症機序、診断・治療の原理と応用について学び、医師免許を取得し基礎医学、社会医学、臨床医学などの領域で国際的に活躍する人材を養成しています。健康総合科学科では、健康の維持と病気の予防、社会や環境と疾患の関係性、介護や看護の科学など、多様な健康に関連する科学を学びます。
医学科では医師養成のための職業教育という観点も重要ですので、多くの科目が必修科目であり実習が多く取り入れられています。そのため、教養学部時代にリベラルアーツをしっかり学ぶことは一層重要です。医学部に進学後はまず基礎医学や社会医学を学び、その後に臨床医学を学びます。学生のうちから実際に研究に携わり優れた成果を挙げる学生も多く、特に医学研究を志す学生にはPhD‐MDコース、MD研究者育成プログラム、臨床研究者育成プログラムなどが用意されています。臨床医学の教育では参加型の臨床実習が重要なカリキュラムですが、それに参加するには全国共通の共用試験(CBT)と、診療の態度と技能を評価する試験(OSCE)に合格する必要があり、合格後に患者さんの前に出ることができるようになります。
健康総合科学科のカリキュラムは幅広い内容に対応しており、三年次に希望専修の科目の履修が開始されます。健康総合科学科には「環境生命科学」「公共健康科学」「看護科学」の三つの専修があり、それぞれが異なった領域をカバーしています。学科名が示すように、本学科では人々の生活にとって重要な構成要素である健康を学科全体の柱としています。人の誕生、成長・成熟、老化というプロセス全体において幸福の向上を実現する科学が健康総合科学であり、そのためには人間の個別性・多様性、社会背景・社会規範などへの配慮、社会への貢献の意識が重要です。健康総合科学科には前期課程の科類を横断する形で学生が進学しており、多様な学生が交流することで学際的な研究教育活動が実践されています。
医学部の卒業生の進路は、実は多様です。健康総合科学科の卒業生は、健康に関連したアカデミア、企業、公的機関など、様々な分野で活躍しています。医学科の卒業生も、臨床医、医学研究者から、行政、起業まで、多様な進路を取っています。また、それらの進路は相互に交差し、途中で活躍の分野が変わる人たちもいます。このため、医学部に進学する学生には、医学部の持つ多様な教育や研究のリソースを活用して主体的な学修を行うとともに、学部生の間も学問と社会の関わりを意識した学修を心掛けることを期待しています。
医学を学ぶものとしての高い倫理観と自覚を持ちながら、多様な経験を深めて下さい。東京大学の構成員には、その優れた能力を活かし、どの分野においても世界をリードする使命があります。多くの学生がnobles obligeの精神を忘れず、人類の福祉に大きく貢献してくれることを願っています。
(医学部長/内科学)
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