教養学部報
第663号
〈後期課程案内〉工学部 工学は未来を拓く
工学系研究科 副研究科長 津本浩平
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe
日本で最古の大学は東京大学です。工学部の起源は東京大学の前身である帝国大学の設置時(一八八六年)であり、実は、工学分野では、本学が世界最古の大学なのです。一八七一年長州ファイブとして名高い山尾庸三を工学頭として創設された工部大学校を前身とし、ヘンリーダイヤが自らの理想をもって設計した工学部であり、土木工学科、造家学科、機械工学科、造船学科、電気工学科、応用化学科、採鉱及冶金学科の七学科体制で始まりました。その後の科学・技術の進化に伴って、現在では十六学科に発展しています。設置以来、日本における産業技術の中核を担う卒業生を輩出し、また、その基礎技術を牽引する研究開発を行ってきました。約五八〇名の教員と二二二名の事務・技術職員が所属し、二一七〇名の学部学生、二三〇〇名の修士課程学生、一四五〇名の博士後期課程学生に対する教育、研究をサポートし、学術の探究、新しい価値の創造に日々邁進しています。
工学がカバーする領域は、基礎科学を追究する分野、追究して得られた知の社会実装を主導する分野、新しい融合領域を開拓する分野など極めて広く、その研究・開発のスケールも量子、原子単位のミクロな操作技術から、大規模構造物、国土、地球、宇宙を対象とするマクロな構築・探査・制御技術まで多岐に渡っています。「東大工学部」は、その設立当時の理想を実現、内容を深化、変革させ、諸外国でも例を見ない学部として成功、発展してきた、と言えるでしょう。東大工学部は、「伝統と変革」を常に指向しています。「変わらないために変える、そして、変わるために変えない」、のです。
加藤泰浩・現工学部長は、「東大工学部は日本のエンジンである」(教養学部報第六三六号)と述べられ、工学部・工学系研究科のスローガンとして「工学は未来を拓く」を掲げておられます。それぞれの分野で探求して得た「知」、いわゆる「工学知」、「専門知」を活かし、夢を描き、地球と人類社会にとってより良い未来をつくること、そして新しい時代を切り拓いていくことが、私たちの大きな目標であり使命です。さらに、持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(ウェルビーイング)を実現できる社会を目指し、新たな価値を創造、「知の活力」を生む、いわゆる「総合知」による社会変革にも貢献していきます。そのためには、あらゆる分野との「連携」が必須になってきますし、先端領域での「知の修練」が必要になってくるでしょう。
工学部には、国際工学教育推進機構という組織があり、ものづくり教育を始めとする創造力の育成、英語教育などを通じた国際感覚の育成を主目的として、工学部共通のさまざまな講義・実習を提供しています。「創造的ものづくりプロジェクト」「創造性工学プロジェクト」では、PBL(Project-Based Learning)型、体験型学習の授業を提供しています。特定分野の技術力はもとより、競技参戦や、事業創出、社会実装を通じて、チーム運営能力やプロジェクト遂行能力が身につきます。コンテストではこれまでにNHKロボコン優勝、学生フォーミュラ日本大会優勝など輝かしい戦績を収めています。また、世界に開かれた研究教育拠点をめざし、質の高い教育によって国際的な場面で活躍できる人材を育成しています。そのために、国際コミュニケーション能力としての言語教育、ならびに多文化理解、国際化教育を促進する環境を提供し、実践的なグローバル教育を展開しています。
また、工学研究には、真理の探究や基盤技術開発に加えて社会実装化も含まれます。原理原則を突き詰めるだけではなく、それを実現していくための技術開発も求められるのです。工学系研究科では、社会や産業界との強固な連携の上に学術を発展させ、研究成果の社会実装化を強力に推し進めるため、合計七十五もの社会連携講座を産業界からの出資により開講しています。その要請はきわめて強く、最近十年間で研究費が十倍になっています。工学系研究科では社会連携・産学協創推進室(CERPO)が大きな役割を担っています。
さらに、工学部では、起業家精神、アントレプレナーシップの教育と実践に力を入れています。在学中あるいは卒業後すぐにスタートアップ企業を立ち上げて、社会課題の解決に自ら取り組む例が増えています。新しいアイデアによってさまざまな制約を切り開いて、革新的なモノやコト(サービス)を生み出すことは、より多くの方がさまざまなキャリアを経験される現代にはとても重要ですし、結果としてのイノベーションはこれからの社会の変革をドライブします。
工学部は多様性を尊重し、一人ひとりの個性を活かすインクルーシブな社会の実現を目指しています。だれ一人取り残されることなく皆が安心して暮らせるインクルーシブ社会を実現するため、性別や年齢、立場などにとらわれることなく、誰もが先進的な学問・研究を修められる環境を提供するための取り組みを進めています。また、アウトリーチ活動として内外で高く評価されている「メタバース工学部」、多彩な能力を有する博士人材の育成等、たくさんの「仕掛け」を工学部は用意しています。詳細はホームページやガイダンスブックをご覧ください。
明治維新からまもなく百六十年を迎え、今まさに、日本は大きな変革期にあります。国際的にみてもこの激動の時代に、大局観を持ちつつあふれんばかりの情熱をもって、私たちと工学を学びませんか。そして、一緒に新しい未来を拓きませんか。
(副研究科長/バイオエンジニアリング)
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