教養学部報
第665号
<時に沿って> 銀河と家族
日下部晴香
今年四月一日付で総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系に助教として着任いたしました、日下部晴香と申します。専門は天文学で、銀河の形成進化を観測的に研究しています。美しく個性豊かな銀河たちが、約140億年の宇宙の歴史の中でどのように星を形成し進化してきたのか、最先端の大型望遠鏡を用いて探るこの仕事は、非常にわくわくするものです。
東京大学の天文学科に進学後、銀河進化という分野を専門に選んだきっかけは、「銀河の綺麗な姿に魅了されたから」です。今では銀河研究の科学的意義や興味深さはいくらでも語れますが、当時はもっと安直に好きだと思うものを選びました。大学院でさらに研究を進めると、欧州の大型望遠鏡に新たに搭載された可視光の面分光装置(MUSE)の性能に感銘を受け、また、海外で研究してみたいという思いが芽生えました。
博士課程進学時に学生結婚をしたことは、当時は珍しく、周囲に驚かれ、心配もされました。卒業後に二人とも研究者を目指すと同じ地域で職を得て同居することが難しい一方(ポスドク二体問題)、東京で学生をしている時なら一緒に暮らしやすいので、勢いで決断をしたものの理にはかなっていたと思います。その後、MUSE研究の本拠地のフランスのリヨン天文台に三ヶ月滞在する機会を得て、研究・生活ともに充実した日々を送りました。滞在中には、三児の母として国際的に活躍する私の憧れだった女性研究者と再会することもできました。彼女はちょうどスイスのジュネーブ天文台で研究グループを立ち上げ、ポスドク研究員を募集していたので、私は応募し、幸いなことに採用してもらえました。
ジュネーブでは、女性研究者が多く、研究グループでは女性がマジョリティーだったほどでした。研究者たちが育児と研究を両立し、家族を大切にする姿にとても良い刺激を受けました。年の近い同性の友人もでき、毎日楽しく充実した日々を過ごしました。また、夫も州内でポスドク先を得て「二体問題」も解消されました。私はスイスナイズされてプライベートの選択の心理的ハードルが下がり、念願の犬を迎え、翌年には第一子が誕生しました。スイスでの出産・育児は大変でしたが、ジュネーブの上司をはじめとしたみなさんのご理解とご支援のおかげで、なんとか研究を続けることができました。大変感謝しております。
四年三ヶ月のスイス生活は、研究面でも家庭面でもかけがえのない時間でした。帰国を目指すことにした際、夫婦で東京の保育施設のある研究機関に絞って応募しました。私は学振PDとして国立天文台に勤務できることとなり、台内の保育園に子どもを預けながら研究に集中することができました。
このたび、約十年ぶりに駒場キャンパスに戻り、懐かしさとともに、新たな挑戦への意欲が湧いています。息子はもうすぐ三歳に、娘(犬)はもう四歳になり、過去三年と比べ家庭の状況が格段に良くなってきました。駒場で学生や教職員の皆さまとの交流を通じて私自身も成長し、少しでも学生の方々の力になれたら嬉しく思います。
(広域システム科学/宇宙地球)
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