HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報665号(2025年7月 1日)

教養学部報

第665号 外部公開

<時に沿って> 駒場に回帰し未踏の領域を目指す

竹井尚也

image665-03-2.JPG 二〇二五年四月より、生命環境科学系スポーツ・運動部会(身体運動科学研究室)の助教として着任いたしました竹井尚也と申します。私は二〇一四年四月に大学院総合文化研究科に入学し、修士・博士課程を通じて身体運動科学研究室の八田秀雄先生のもとで学び、二〇二一年三月に博士号を取得いたしました。その後、二〇二〇年からの四年間は同研究室において特任研究員として研究に従事し、さらに他大学にて一年間勤務したのち、再び駒場に戻ってまいりました。これまで多くの時間を過ごしてきた駒場に再び身を置けることを大変嬉しく思っており、初心に立ち返って教育と研究に一層励んでまいります。

 これまでスポーツ科学の分野で研究に取り組んでまいりましたが、私自身のスポーツとの関わりについて少しご紹介させていただきます。私は中学生の頃に陸上競技の一〇〇メートル走を始め、大学卒業までの一〇年間、競技に本格的に取り組んでまいりました。高校時代には国民体育大会で三位に入賞し、大学では早稲田大学競走部に所属し、四〇〇メートルリレーの第一走として関東インカレで優勝、全日本インカレで二位入賞を経験しております。一〇〇メートル走は、直線を速く走るという非常にシンプルな競技であり、複雑な動作は伴いません。そのため、自分の動作に深く向き合うということが求められます。私は選手時代、よく走った際のタイムを計測し、走りを動画で確認して課題点を見出し、修正して再び走りタイムを計測するという作業を繰り返していました。自身の走りの課題を見つけ、それを改善する方法を考え、タイムという客観的な指標で効果を検証するというこのプロセスは、研究活動に通じるものがあります。

 より良いパフォーマンスを得るためには、自分の頭で考えることに加え、先人の知恵を借りることも重要です。スポーツ科学の文献に触れるようになってからは、より効果的で根拠のある改善策を実践できるようになりました。同時に、先人たちが解明しきれていない部分が多く残されていることも痛感し、スポーツ科学の未解明領域を少しでも切り拓いていきたいとの思いから、研究者を志しました。現在の研究分野は運動生理学であり、特に「低酸素トレーニングの生理応答と適応」に関する研究を行っています。低酸素トレーニングはもともと、酸素分圧の低い高高度環境に適応するためのパイロットの訓練法として始まり、その後、トップアスリートのパフォーマンス向上のために活用されてきました。近年では、民間ジムへの導入などにより、より多くの人がこの手法を利用できるようになっています。しかし一方で、低酸素環境を一般の人々の健康保持や傷病者の運動療法に応用するための科学的知見は、依然として不足しています。これまでスポーツを通じて培ってきた試行錯誤の経験と忍耐力を活かし、低酸素環境の健康・医療分野への応用という新たな可能性を切り拓く研究者を目指して、今後も精進してまいります。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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