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2024.11.29
【受賞】超域文化科学専攻の今橋映子教授が第12回日本学賞を受賞
超域文化科学専攻比較文学比較文化コースの今橋映子教授が、その業績により第12回日本学賞(一般社団法人 日本学基金主催)を受賞されました。日本学賞は、「日本学の各分野における、選考時点での最高の業績」を顕彰し、よって研究の未来に資すること」を目的とするものです。
特に高く評価されたのは、『近代日本の美術思想―― 美術批評家・岩村透とその時代』(白水社)です。本書は「20世紀初頭、絵画や工芸、建築など、多分野の人々と共闘した岩村透の足跡から、「美術」による社会変革の試みを掘り起こす」もので、文学・絵画・彫刻・工芸・建築・社会思想などを繋ぐ学際研究です。明治から大正にかけて活躍し、今日では半ば忘れられている岩村透という人物について、広範な資料調査と分析を行い、その生涯と共に、彼を取り巻く時代・文明・芸術等の有り様を明らかにしました。以下はその業績概要です。この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。
【業績概要】
今橋映子氏は、東京大学駒場の比較文学比較文化研究室において、日本と異文化の交流理解を深める研究を推進してきました。「日本人のパリ観」「パリ神話と外国人芸術家」「写真文化論」「日本近代美術批評」など、多岐にわたるテーマを通じて、日本の近代文化と海外の表象を比較文化・比較文学の視点から探求し、独自の視点を示してきました。
今回の日本学賞受賞の評価対象となった今橋映子氏の代表作『近代日本の美術思想―美術批評家・岩村透とその時代』は、30年以上の調査による上下巻1500ページにわたる大著です。本書は、明治から大正期に活躍した美術批評家・岩村透を、日本の近代美術思想の先駆者として再評価しています。岩村は「美術百年の計」を掲げ、美術行政やアーツマネジメントを先取りする思想家であり、森鷗外や夏目漱石など同時代の文人たちと交流を持ちながら、その思想は広範な文化史的背景に基づいて展開されました。さらに、言論弾圧下で教授復職が拒まれた「岩村教授復職却下事件」なども扱い、美術と思想の自由を問い直す意義深い内容となっています。
今橋氏の研究手法は緻密かつ実証的であり、現代の批評理論に偏ることなく調査結果を積み重ね、岩村の全体像を構築しています。また、巻末に収録された年譜や著作リストなどの資料が、同氏の並外れた探求心と責任感を証明しています。本書は、比較文化・比較文学の視点から日本文化史に新たな光を当てるものであり、日本の近代美術思想と文化の中に独自の位置を築く岩村透を現代に蘇らせました。この業績を、日本近代文化史への独創的な貢献として高く評価し、今回の日本学賞受賞にふさわしいと考えます。
(日本学賞授賞式)
関連リンク
日本学基金:お知らせページ(日本学賞の受賞者が決定しました)
https://nihongaku.jp/news/archives/3
UTokyo BiblioPlaza:『近代日本の美術思想―― 美術批評家・岩村透とその時代』(白水社)
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/G_00112.html