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2022.08.18
【研究成果】光に対して安定なのに、光で分解できる材料を開発 ――長く使えて環境にやさしい材料へ
東京大学大学院総合文化研究科科学技術振興機構(JST)
発表者
寺尾 潤(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授)
正井 宏(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
ラッセル 豪 マーティン(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程)
発表のポイント
- 従来の光分解性材料はその分解性のために、光の下で長時間利用できないという問題点があった。そこで、光に対する安定性と分解性を両立させた新しい材料の開発に取り組んだ。
- 新しい分解方法として、光と酸がそろった時のみ分解可能な高分子材料を開発することで、光に対して安定でありながらも、酸の存在下で光分解できる材料を実現した。
- 分解性プラスチック材料や光微細加工された機能性材料などが、身の回りでも長期間利用可能になるなど、環境的・産業的に有用な材料の創成に貢献すると考えられる。
発表概要
光分解性材料は、人工的な光や自然光によって材料を分解可能であることから、環境調和型の材料として有望視されています。同時に光分解性材料は、局所的な分解を利用した材料微細加工など、産業的にも広く応用されてきました。その一方で、光分解性材料は光が当たると分解されてしまうため、材料を光の下で長時間利用することができません。この本質的な問題は、光分解性材料を身の回りで利用し続ける上での大きな制約になっていました。 東京大学大学院総合文化研究科の寺尾潤教授、正井宏助教、ラッセル豪マーティン大学院生らは今回、光が単独で作用し分解を引き起こすのではなく、光と酸を同時に作用させた時のみ材料を分解させる技術を開発しました。すなわち、酸を用いることで光分解や光微細加工が可能でありながらも、酸が存在しない状況では光に対する長期安定性を材料が有するという、従来の問題点を打開した新しい光分解性材料が実現しました。 本研究によって、光の下でも長期的に使用可能で、かつ使用者が意図したタイミングで光分解できるプラスチック材料など、環境的・産業的に有益な材料の創成に貢献すると考えられます。
発表内容
光によって分解する材料は光分解性材料と呼ばれており、人工的な光や自然光を照射することによって材料を分解可能であることから、高い環境調和性を有する材料として有望視されています。同時に、光分解性材料は産業においても広く利用されており、光の微細加工性を利用したフォトレジストやドラッグデリバリー材料など、医療・電子・プロセス工学といった多岐にわたる分野で応用されてきました。しかしその一方で、光分解性材料は光が当たると分解されてしまうため、材料を光の下で長期間利用し続けることができないという本質的な問題を有しています。この点は、環境調和性の高い材料としての光分解性材料や、光の微細加工性を活用した機能性材料を、身の回りで長期にわたって利用する上での大きな制約となっていました。 東京大学大学院総合文化研究科の寺尾潤教授、正井宏助教、ラッセル豪マーティン大学院生らは今回、光に対する安定性と分解性という、相反する2つの性質を両立する新しい材料の開発を目指しました。本研究グループが着目したのは、材料の使用中は光に対して安定でありながらも、特殊な条件下では速やかに光分解可能な状態へと切り替えるという戦略です。これを実現するための方法として、光と酸が同時に作用することで材料を分解する協働分解技術を開発しました。つまり、光が単独で作用し分解を引き起こすのではなく、光と酸を同時に作用させた場合のみ、材料を分解させる技術です。これを実現することによって、人工的な分解プロセスにおいて速やかな光分解や光微細加工が可能でありながらも、酸が存在しない状況では光に対する長期安定性を材料が有するという、従来の問題点を打開した新しい光分解性材料が実現しました(図1)。