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最終更新日:2022.09.07

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トピックス 2022.09.05

【研究成果】赤色蛍光タンパク質型cGMPセンサーの開発と多色イメージングへの応用 ――新たな蛍光色で細胞内のcGMP動態を可視化――

東京大学大学院総合文化研究科
東京工業大学科学技術創成研究院


発表者

滝澤 舞(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程(研究当時))
大須賀 佑里(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程)
石田 りか(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程(研究当時))
北口 哲也(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授)
坪井 貴司(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授)


発表のポイント

  • 生命現象に必要不可欠な細胞内cGMP動態を可視化解析できる、赤色蛍光タンパク質センサーの開発に成功しました。
  • 本研究で開発した蛍光タンパク質センサーは、cGMPに応答して蛍光輝度が約6.7倍に上昇します。また、別の細胞内分子を可視化するセンサーと併用することで、2色イメージングが可能です。
  • 開発した蛍光タンパク質センサーを用いて、L-アルギニンによる消化管ホルモン分泌促進時の細胞内cGMP動態を明らかにしました。

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授と滝澤舞大学院生(研究当時)、大須賀佑里大学院生、石田りか大学院生(研究当時)らは、東京工業大学科学技術創成研究院の北口哲也准教授らと共同で、細胞内セカンドメッセンジャー(注1)の一種であるcGMP(環状グアノシン一リン酸)(注2)を可視化できる、赤色cGMPセンサーRed cGull(Red cGMP visualizing fluorescent protein)(注3)の開発に成功しました。この研究成果は、2022年9月5日にCommunications Biology(オンライン版)に掲載されました。

 今回開発されたRed cGullは、赤色蛍光タンパク質mAppleを二分割し、その間にcGMP分解酵素(phosphodiesterase 5α, PDE5α)のcGMP結合ドメインを挿入した構造をもつ、蛍光タンパク質センサー(注4)です。mAppleとPDE5αの間のリンカーアミノ酸配列(注5)を最適化することで、cGMPに対する蛍光応答を調節しました。Red cGullはcGMPに応答して蛍光輝度が約6.7倍上昇します。

 Red cGullをヒトやマウスのさまざまな臓器由来の細胞に発現させ、蛍光顕微鏡によるイメージング(注6)を行うことで、細胞内のcGMP動態をリアルタイムで可視化解析することに成功しました。また、Ca2+特異的な緑色蛍光色素や、青色光活性型タンパク質と同時に使用することで、2色イメージングや光遺伝学ツール(注7)との併用が可能であることを示しました。

 さらに、Red cGullをマウス小腸内分泌細胞株に発現させ、消化管ホルモン分泌時における細胞内cGMP動態について解析した結果、アミノ酸であるL-アルギニンが、一酸化窒素合成酵素を介して小腸内分泌細胞(注8)のcGMP産生を促すことを明らかにしました。


発表内容

<研究の背景と問題点>
 cGMPは、平滑筋の弛緩、視覚情報の伝達、アポトーシスなど、生体内のさまざまな生命現象に関与することが知られているセカンドメッセンジャーの一種です。これまでに、cGMP動態を可視化する緑色蛍光タンパク質センサーが、本研究グループが開発したものも含め、複数発表されています。現在普及している多くの蛍光タンパク質センサーは、緑色蛍光タンパク質を基盤としています。細胞内のシグナル分子や代謝物の階層的な反応を理解するためには、同一細胞内でCa2+やcAMPなどの他の細胞内セカンドメッセンジャーと同時に多色イメージングすることが有効な手段の1つです。そのために、緑色蛍光タンパク質センサーと併用可能な、赤色蛍光タンパク質を利用した蛍光タンパク質センサーの開発が望まれています。

<研究内容>
 本研究では、世界で初めて赤色蛍光タンパク質を基盤としたcGMP特異的蛍光タンパク質センサーRed cGullの開発に成功しました。Red cGullは、赤色蛍光タンパク質mAppleを二分割し、その間にcGMP結合ドメインPDE5αを挿入した構造をしています(図1A)。Red cGullにcGMPが結合すると、立体構造が変化し、mAppleの蛍光輝度が上昇することを期待しています(図1B)。その結果、細胞内cGMP動態をRed cGullの蛍光輝度の変化として捉えることが可能となります。Red cGullは、cGMPにより最大で約6.7倍の蛍光輝度上昇を示し(図1C)、その応答は濃度依存的です(図1D)。

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図1 Red cGullの構造模式図とその性質
(A) Red cGullの模式図。赤色蛍光タンパク質mAppleを分割し、cGMP結合ドメインPDE5αの配列を挿入した。
(B) Red cGullの構造模式図。cGMPが結合ドメインへ結合することで、Red cGullの立体構造が変化しmAppleの蛍光輝度が上昇する。
(C) Red cGullにcGMPを投与すると、蛍光輝度が約6.7倍変化する。
(D) Red cGullの輝度変化は、cGMP濃度依存的である。cAMP(環状アデノシン一リン酸)には応答しない。
(Development of a red fluorescent protein-based cGMP indicator applicable for live-cell imaging Takizawa et al., Communications Biology, 2022より一部改変)


 開発したRed cGullを、マウス小腸内分泌細胞株GLUTag細胞やヒト由来子宮頸がん細胞株HeLa細胞に遺伝子導入し、蛍光顕微鏡で観察することで、細胞内cGMP動態を検出することに成功しました(図2A, B)。また、緑色Ca2+感受性蛍光指示薬Fluo4と併用することで、細胞内cGMPと細胞内Ca2+の2色イメージングも可能です(図2C)。

 青色光を照射するとcGMPを生産する光活性型可溶性グアニル酸シクラーゼとRed cGullを共発現することで、Red cGullが光遺伝学ツールと併用できることも示されました(図3)。


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図2 Red cGullを発現させた細胞を用いたイメージング
(A)マウス小腸内分泌細胞株GLUTag細胞にRed cGullを遺伝子発現させ、600 μM SNAを投与した際の蛍光輝度変化率(%)と細胞の様子。
(B)ヒト由来子宮頸がん細胞株HeLa細胞にRed cGullを遺伝子発現させ、2 mM 8-Br-cGMPを投与した際の蛍光輝度変化率(%)と細胞の様子。
(C)マウス小腸内分泌細胞株GLUTag細胞にRed cGullとCa2+蛍光指示薬Fluo4を導入し、600 μMSNAPを投与した際の蛍光輝度変化率(%)と細胞の様子。挿入画像中の時間は、刺激投与からの経過時間を示す。
(Development of a red fluorescent protein-based cGMP indicator applicable for live-cell imaging Takizawa et al., Communications Biology, 2022より一部改変)

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図3 Red cGullと光遺伝学ツールの併用
GLUTag細胞に、Red cGullと光活性型可溶性グアニル酸シクラーゼ(青色光を照射するとcGMPを生産する光活性化タンパク質)を発現させ、青色光を照射した際のRed cGullの輝度変化率(%)。挿入画像下の時間は、青色光を照射してからの経過時間を示す。
(Development of a red fluorescent protein-based cGMP indicator applicable for live-cell imaging Takizawa et al., Communications Biology, 2022より一部改変)

 小腸下部に存在する小腸内分泌細胞は、L-グルタミンやL-アルギニンなどのアミノ酸を受容し、血中に消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(glucagon like peptide-1, GLP-1)を分泌します。これまでに、Ca2+やcAMPなどのセカンドメッセンジャーが、小腸内分泌細胞からのGLP-1分泌に関与することが報告されてきましたが、cGMPの役割については不明でした。そこで、Red cGullを発現させた小腸内分泌細胞株STC-1細胞でcGMPイメージングを行い、L-アルギニン投与によって細胞内cGMP濃度が上昇し、GLP-1分泌が促進されることを見出しました(図4A)。この細胞内cGMP濃度上昇は、一酸化窒素合成酵素阻害剤(L-NAME)の投与により阻害されたことから、一酸化窒素合成酵素を介する反応であることが示唆されました(図4B)。しかし、一酸化窒素によって活性化される可溶性グアニル酸シクラーゼの阻害剤(LY-83583)を添加しても、L-アルギニン投与によって起こるGLP-1分泌は、抑制されませんでした(図4C)。


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図4 L-アルギニンのGLP-1分泌への効果
(A) 小腸内分泌細胞株STC-1細胞に、10 mM L-アルギニンを投与した際のRed cGullの蛍光輝度変化率(%)。
(B) 小腸内分泌細胞株STC-1細胞に、10 mM L-アルギニン単独または、一酸化窒素合成合成酵素阻害剤L-NAMEを共投与した際のRed cGullの最大蛍光輝度(%)。p < 0.0001 (****), p = 0.0419 (*)
(C) 小腸内分泌細胞株STC-1細胞に、10 mM L-アルギニン単独または、グアニル酸シクラーゼ阻害剤LY-83583を共投与した際の活性型GLP-1分泌量の相対値。p = 0.0103 (*), p = 0.5639 (n.s.), p < 0.0001 (****)

 以上の結果から、L-アルギニンが小腸内分泌細胞においてcGMPの産生を引き起こし、消化管ホルモンであるGLP-1分泌を引き起こすことが明らかになりました。しかし、GLP-1分泌を促進する分子機構についてはさらなる検証が必要です。

<社会的意義と今後の展望>
 今回開発したRed cGullは、赤色蛍光タンパク質を基盤とした世界初の蛍光タンパク質型cGMPセンサーです。細胞内のシグナル伝達や代謝反応を理解するために、これまでさまざまな分子を対象とした蛍光タンパク質センサーが開発されてきました。Red cGullは多くの緑色蛍光タンパク質センサーや光遺伝学ツールとの併用が可能です。細胞内のcGMP濃度変化を高い時空間能でリアルタイムに捉えることは、多くの疾患の細胞レベルでの病態理解に繋がるだけでなく、糖尿病や心臓病などの多くの疾患に対する新規予防法・診断法の確立に寄与できる可能性があります。

発表雑誌

雑誌名:Communications Biology(オンライン版:2022年9月5日掲載)
論文タイトル:"Development of a red fluorescent protein-based cGMP indicator applicable for live-cell imaging"
著者:Mai Takizawa, Yuri Osuga, Rika Ishida, Marie Mita, Kazuki Harada, Hiroshi Ueda, Tetsuya Kitaguchi*, Takashi Tsuboi*
DOI番号:10.1038/s42003-022-03790-2
研究グループ:
滝澤 舞(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程(研究当時))
大須賀 佑里(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程)
石田 りか(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程(研究当時))
三田 真理恵(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程(研究当時))
原田 一貴(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教)
上田 宏(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授)
北口 哲也(東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授)
坪井 貴司(東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授)

用語解説

(注1)細胞内セカンドメッセンジャー:
細胞表面で受け取ったシグナルを細胞内へと中継する分子やイオンのことで、Ca2+やイノシトール三リン酸とジアシルグリセロール、そして環状ヌクレオチドであるcAMPやcGMPなどが該当する。

(注2)cGMP(環状グアノシン一リン酸):
細胞内セカンドメッセンジャーの一種。グアニル酸シクラーゼによってGTPから生成される。平滑筋の弛緩、視覚情報の伝達、アポトーシスなどに関与する。
(注3)Red cGull:
Red cGMP visualizing fluorescent proteinの略。以前に開発した緑色cGMPセンサーGreen cGullに倣って(Matsuda et al., ACS Sensors, 2017)、鳥類であるカモメ(seagull)から命名。

(注4)蛍光タンパク質センサー:
特定の波長の光によって励起され、励起する際に用いた光の波長よりも長波長の蛍光を発する蛍光タンパク質と、ある分子特異的に結合する結合ドメインを組み合わせた構造をもつ。ある分子を特異的に受容すると立体構造が変化し、蛍光輝度が変化する。
(注5)リンカーアミノ酸配列:
タンパク質同士をつなぐアミノ酸配列で、数個から数十個のアミノ酸からなる。

(注6)イメージング:
細胞や組織中の分子を可視化解析すること。

(注7)光遺伝学ツール:
光遺伝学とは、光によって活性化されるタンパク分子を遺伝学的手法によって特定の細胞に発現させ、その機能を光で操作する技術。活性化に用いられる光活性化タンパク質には、緑藻類クラミドモナスから同定されたチャネルロドプシンや鞭毛虫の一群であるユーグレナから同定された光活性化アデニル酸シクラーゼなどがある。

(注8)小腸内分泌細胞:
小腸内分泌細胞は、小腸下部や大腸上部に存在し、食欲を司る消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やペプチドYY(PYY)を分泌する。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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