ニュース
2022.09.07
【研究成果】クマムシ耐性タンパク質によるストレスに応答した細胞の硬化 --究極生命体に向けて - カーズ(CAHS)タンパク質の働き--
東京大学大学院理学系研究科東京大学大学院総合文化研究科東北大学医科学研究所
発表者
田中 彬寛(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 博士課程) 中野 智美(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 修士課程(研究当時)) 尾山 大明(東京大学医科学研究所附属疾患プロテオミクスラボラトリー 准教授) 柳澤 実穂(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 准教授) 國枝 武和(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授)
発表のポイント
- 乾燥耐性に関わるクマムシ固有のカーズ(CAHS)タンパク質が脱水様ストレスに応答して動物細胞内で可逆的に繊維構造を形成するとともに細胞を硬化させ、細胞のストレス耐性を向上させることを明らかにしました。
- カーズ(CAHS)タンパク質が細胞内に柱のような構造を形成することで物理的安定性を高めて細胞の耐性に寄与するという新たな耐性メカニズムを提唱しました。
- 耐性の新規メカニズムを提唱する成果であり、同様のメカニズムによる新規耐性タンパク質の発見や改良、人工耐性分子の新規設計などに寄与することが期待されます。
発表概要
水は生命に必須の構成成分ですが、クマムシなど一部の動物はほぼ完全な水の喪失に耐える特殊な能力を持ちます。これまでに耐性に関わるクマムシ固有のタンパク質がいくつか同定されてきましたが、その分子メカニズムの詳細は不明でした。 東京大学大学院理学系研究科の田中彬寛大学院生・中野智美大学院生(研究当時)・國枝武和准教授らのグループは、大学院総合文化研究科の柳澤実穂准教授、医科学研究所の尾山大明准教授らのグループと共同で、脱水様ストレスに応答して可逆的に集合するタンパク質群をクマムシから網羅的に同定し、その中にクマムシ固有の耐性タンパク質カーズ(CAHS)が含まれることを見出しました。さらに、CAHSタンパク質がゆるやかな脱水をもたらす高浸透圧ストレスに応答して細胞内で可逆的に繊維を形成し、細胞の機械的な強度および高浸透圧ストレス耐性を向上させることを明らかにしました。耐性タンパク質が環境ストレスに応答してダイナミックに高次構造体を形成することで、オンデマンドに細胞に機械的な安定性を付与するという新たな耐性メカニズムを提唱しました。今回の新規な乾燥耐性メカニズムの解明は、貴重な生体サンプルやバイオ医薬などの新たな乾燥保存技術の開発につながることが期待されます。

発表雑誌
掲載誌:PLOS Biology 論文タイトル:Stress-dependent cell-stiffening by tardigrade tolerance proteins that reversibly form a filamentous network and gel 著者:Akihiro Tanaka, Tomomi Nakano, Kento Watanabe, Kazutoshi Masuda, Gen Honda, Shuichi Kamata, Reitaro Yasui, Hiroko Kozuka-Hata, Chiho Watanabe, Takumi Chinen, Daiju Kitagawa, Satoshi Sawai, Masaaki Oyama, Miho Yanagisawa, Takekazu Kunieda* DOI:10.1371/journal.pbio.3001780
発表詳細
詳細は東京大学理学系研究科のページをご覧ください。
―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―