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最終更新日:2024.02.15

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トピックス 2023.03.15

【研究成果】統合失調症、うつ病、双極性障害に関連した脳内ネットワーク異常を発見

東京大学
和歌山県立医科大学

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発表者

小池 進介(東京大学 大学院総合文化研究科 附属進化認知科学研究センター 准教授/東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)連携研究者)
石田 卓也(和歌山県立医科大学 神経精神医学講座 助教/東京大学 大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センター 特任研究員(研究当時))


発表のポイント

  • 精神疾患の安静時機能的磁気共鳴画像の大規模データセットを用いて、統合失調症、うつ病、双極性障害に共通する脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常を明らかにしました。
  • 統合失調症、うつ病、双極性障害それぞれの疾患に特異的な脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常も明らかにし、それらが各疾患の精神症状と相関していることを示しました。
  • 脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常は、精神疾患の病態機序解明における重要なバイオマーカーになる可能性を示唆しています。

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センター・小池進介准教授(東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN) 連携研究者)、和歌山県立医科大学神経精神医学講座・石田卓也助教、東京大学医学部附属病院精神神経科・笠井清登教授(東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN) 主任研究者)、東京大学医学部附属病院放射線科・阿部修教授、広島大学医学部附属病院精神神経科・岡本泰昌教授、京都大学医学部精神医学講座・村井俊哉教授、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・川人光男所長らの研究グループは、安静時機能的磁気共鳴画像(rsfMRI)(注1)から得られた脳機能画像を用いて、統合失調症、うつ病、双極性障害の脳内大規模ネットワーク(注2)間の因果性結合(注3)異常を評価し、3疾患に共通する因果性結合異常とともに各疾患特異的な因果性結合異常のパターンを明らかにしました。

 ヒトの認知機能の遂行は、機能的に接続された別々の脳領域同士が共同して働くことで支えられ、様々な脳の大規模ネットワークが存在していることが知られています。これまでの多くの研究から、精神疾患では脳内の大規模ネットワーク間の機能的な結合異常があることが分かっていましたが、サンプルサイズも小さく、その殆どが複数ではなく単一の精神疾患群と健常者群との比較に留まることから、一貫した結論を得ることができていませんでした。

 そこで本研究グループでは、日本国内3施設の4つの大規模rsfMRIデータセットを用いて、統合失調症、うつ病、双極性障害における7つの脳内大規模ネットワーク(図1)間の因果性結合を評価し、比較することで、動機付けや意思決定、記憶や言語処理に関係する大脳辺縁ネットワークにおける自己抑制性の因果性結合(注4)が3疾患で共通して減少していることを明らかにしました。また、各精神疾患特異的な脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常も明らかにし、これらが各疾患の症状と関連することがわかりました。今後、精神疾患における脳内大規模ネットワーク間の結合異常をさらに精密に検討することで、精神疾患の生物学的病態基盤の解明につながることが期待されます。


発表内容

研究の背景・先行研究における問題点
 ヒトの感情や認知機能の遂行は、機能的に接続された別々の脳領域同士が共同して働くことで支えられ、脳の大規模ネットワークを形成することが知られています。脳内大規模ネットワークには、視覚ネットワーク(VIN)、体性運動ネットワーク(SMN)、背側注意ネットワーク(DAN)、顕著性ネットワーク(SAN)、大脳辺縁ネットワーク(LIN)、前頭頭頂制御ネットワーク(FPN)、デフォルトモードネットワーク(DMN)などが存在しています(図1)。統合失調症やうつ病、双極性障害などの精神疾患では、これらのネットワーク間の機能的な結合の仕方に異常をきたしていると考えられています。

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図1.7つの脳内大規模ネットワーク

 これまでの多くの研究でも、様々な精神疾患における脳内大規模ネットワーク間の機能的な結合異常が報告されてきましたが、研究結果が一致しないことが多く、一貫性のある結論を導くことができませんでした。主な理由として、これまでの研究ではサンプル数の少ない単独の精神疾患群と健常者群との比較がほとんどであり、機能的な結合の評価も脳領域間の時系列データの相関係数を取るのみで評価しており、脳領域間の因果関係が考慮されてこなかったことが挙げられます。近年、rsfMRIを用いてDynamic Causal Modeling(DCM)という脳領域間の因果関係を考慮に入れた機能的な結合(因果性結合)を評価する方法が開発されました。

 そこで本研究グループでは、3施設の4つの大規模rsfMRIデータセットを用いて、統合失調症、うつ病、双極性障害における7つの脳内大規模ネットワーク間の因果性結合をDCMで評価することにより、
 1)3疾患群で共通した脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常
 2)各疾患群特異的な脳内大規模ネットワーク間の因果性結合異常
をそれぞれ明らかにすることを目的としました。

研究内容
 東京大学、京都大学、広島大学の3施設の4つの大規模データセットから健常者390名、統合失調症患者143名、うつ病患者163名、双極性障害患者43名のrsfMRIを用いて、7つの脳内大規模ネットワーク間の因果性結合を評価し、比較を行いました。その結果、大脳辺縁ネットワーク(LIN)の自己抑制性の因果性結合が3つの疾患で共通して減少していることがわかりました。また、統合失調症ではLINから複数のネットワークへの因果性結合が増大しており、うつ病では体性運動ネットワーク(SMN)の自己抑制性の因果性結合が増大し、背側注意ネットワーク(DAN)の自己抑制性の因果性結合が減少し、双極性障害では顕著性ネットワーク(SAN)の自己抑制性の因果性結合が増大していることが明らかになりました(図2)。

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図2.脳内大規模ネットワーク間の因果性結合の群間差
統合失調症群vs健常者群の図で黄色から赤色(水色から青色)で示された値は、因果性結合が統合失調症の方が健常者よりも大きい(小さい)ことを示している。

 また、統合失調症のLINの自己抑制性の因果性結合は幻聴や妄想などのPANSS(注5)で評価した陽性症状と、うつ病のDANの自己抑制性の因果性結合はBDI-II(注6)で評価した抑うつ症状、双極性障害のSANの自己抑制性の因果性結合はYMRS(注7)で評価した躁症状とそれぞれ関連していることが明らかになりました(図3)。

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図3.各疾患における脳内ネットワーク間因果性結合異常と症状との関連

 このことは、LINにおける自己抑制性の因果性結合の減少が疾患横断的に共通する重要なネットワーク異常であり、また各疾患特異的なネットワークの因果性結合異常が各疾患の症状に関連していることを意味しています。脳内大規模ネットワーク間の相互作用異常の特徴は、精神疾患の病態機序における重要なバイオマーカーになる可能性を示唆しています。

社会的意義・今後の予定
 本研究は、多施設からなる大規模rsfMRIデータセットで、7つの脳内大規模ネットワーク間の統合失調症、うつ病、双極性障害で共通した因果性結合異常、さらに各疾患特異的な因果性結合異常を明らかにした世界初の研究となります。今後は、脳内大規模ネットワーク間の相互作用異常を他の精神疾患にも適応を拡大させ、疾患横断的にさらに精密に検証することで、精神疾患の生物学的な病態基盤の解明を目指していきたいと考えています。

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)戦略的国際脳科学研究推進プログラム(国際脳:JP18dm0307001、 JP18dm0307004)、AMED革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳:JP19dm0207069)、日本学術振興会科学研究費補助金(JP18K15491、JP20KK0193、JP21H02851、JP21H05324)、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、科学技術振興機構ムーンショット目標2(JPMJMS2021)の助成により支援されました。また、東京大学人間行動科学研究拠点(CiSHuB)、ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)の支援を受けました。

論文情報

雑誌:Schizophrenia Bulletin(オンライン版:3月15日掲載)
論文タイトル:Aberrant large-scale network interactions across psychiatric disorders revealed by large-sample multi-site resting-state functional magnetic resonance imaging datasets
著者:Takuya Ishida, Yuko Nakamura, Saori Tanaka, Yuki Mitsuyama, Satoshi Yokoyama, Hotaka Shinzato, Eri Itai, Go Okada, Yuko Kobayashi, Takahiko Kawashima, Jun Miyata, Yujiro Yoshihara, Hidehiko Takahashi, Susumu Morita, Shintaro Kawakami, Osamu Abe, Naohiro Okada, Akira Kunimatsu, Ayumu Yamashita, Okito Yamashita, Hiroshi Imamizu, Jun Morimoto, Yasumasa Okamoto, Toshiya Murai, Kiyoto Kasai, Mitsuo Kawato, Shinsuke Koike*.
DOI番号:10.1093/schbul/sbad022


用語説明

(注1)安静時機能的磁気共鳴画像(rsfMRI)
機能的磁気共鳴画像(fMRI)は、脳の血液中の酸化ヘモグロビン量の変化であるblood-oxygen level-dependent 信号を捉えることで、非侵襲的に脳内の血流変化を捉える方法です。安静時の脳機能画像は特別な装置を必要とせず、脳領域間の機能的な結合の強さを評価することができるため、多施設共同研究で広く用いられるようになってきました。

(注2)脳内大規模ネットワーク
ヒトの感情や認知機能の遂行は、機能的に接続された別々の脳領域同士が共同して働くことで行われ、大規模ネットワークを構成していることが知られています。いくつかの大規模ネットワークが存在しており、安静時に活動するデフォルトモードネットワークなどが有名です。

(注3)因果性結合
脳の領域間の因果関係を考慮に入れた機能的な結合の評価方法です。

(注4)自己抑制性の因果性結合
ある脳領域Aから脳領域A自身への因果性結合のこと。自分自身への因果性結合は常に自己抑制的に作用することが知られている。

(注5)PANSS
Positive and Negative Syndrome Scaleの略称。統合失調症の症状の評価に使用され、陽性症状尺度、陰性症状、総合病理評価尺度からなる。

(注6)BDI-II
Beck Depression Inventory - Second Editionの略称。うつ病の抑うつ症状の評価に使用される。

(注7)YMRS
Young Mania Rating Scaleの略称。双極性障害の躁症状の評価に使用される。


【関連URL】
小池研究室ウェブサイト:http://klab.c.u-tokyo.ac.jp/

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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