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最終更新日:2024.02.15

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トピックス 2023.06.09

【研究成果】露出した金属表面を持つハイブリッド分子触媒を開発 ――安定性と高い触媒活性を両立――

東京大学
東京都立大学
株式会社リガク
科学技術振興機構(JST)

発表のポイント

  • リング状金属酸化物の内側に存在する1ナノメートル径の空間に銀ナノクラスターを導入することで、露出した銀表面を持つハイブリッド分子触媒を開発。
  • 開発した触媒は高い安定性と触媒活性を両立し、金属酸化物と銀ナノクラスターによる協奏的な触媒作用を示す。
  • 資源循環やエネルギー変換のための触媒、光機能材料、センサー、分子エレクトロニクスなどの材料開発への応用が期待される。

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本研究の概要


発表概要

 東京大学大学院工学系研究科の鈴木康介准教授、米里健太郎特任助教、屋内大輝大学院生、山口和也教授らによる研究グループは、同大学大学院総合文化研究科の横川大輔准教授、東京都立大学大学院理学研究科の山添誠司教授、株式会社リガクと共同で、露出した銀表面を持つ金属ナノクラスター(注1)とリング状の金属酸化物(注2)を組み合わせたハイブリッド分子触媒の開発に成功しました。

 金属ナノクラスターの表面は触媒機能や分子機能の発現に重要ですが、その高い反応性のために、露出した金属表面を持つ構造体の合成や利用は困難でした。本研究では、リング状の金属酸化物の内側に存在する1ナノメートル径の空間を利用することで、30個の銀原子で構成される銀ナノクラスターを合成しました。本研究で開発したハイブリッド分子触媒は、露出した銀表面を持ちながら、固体状態や溶液中で安定であることが分かりました。また、銀ナノクラスターと周囲のリング状金属酸化物が協奏的に働くことで、水素分子を電子とプロトン(水素イオン、H+)に解離することができ、水素分子を用いてさまざまな有機分子を変換する触媒材料として機能します。

 本成果により、反応性の高い露出表面を持つ金属ナノクラスターを設計できるようになります。また、金属ナノクラスターと金属酸化物を組み合わせた多様な構造を設計することが可能になり、資源循環やエネルギー変換のための触媒、光機能材料、センサー、分子エレクトロニクスなどの材料開発への応用が期待されます。

 本研究成果は、6月8日(英国夏時間)に英国学術誌「Nature Chemistry」誌のオンライン版に掲載されました。


発表内容

〈研究の背景〉
 数個~数百個程度の金属原子が集合した金属ナノクラスターは、構成する原子の数や原子の配列によってさまざまな性質や機能を示し、単一の金属原子や普段目にする金属とは異なる多彩な応用が期待されています。特に、金属ナノクラスターは、その表面の反応性が高いことを利用して触媒として機能する重要な材料です。例えば、金属ナノクラスターや金属微粒子を担体(注3)となる金属酸化物と組み合わせることで、化石資源や天然資源から有用な化学品を合成する触媒材料や、環境浄化に利用される触媒材料になります。しかし、表面が露出した金属ナノクラスターは不安定であることが多く、容易に分解・凝集してしまうことが課題でした。そこで、構成する原子の数や配列を原子レベルで制御しながら、露出した表面を安定に保持している金属ナノクラスターの開発が求められています。

〈研究の内容〉
 本研究では、リング状構造を持つ金属酸化物と銀イオン、還元剤(注4)を段階的に反応させることで、リング状金属酸化物の内側に存在する1ナノメートル径の空間に、30個の銀原子からなる銀ナノクラスターを合成しました(図1)。さらに、この銀ナノクラスターに還元剤を反応させることで、銀ナノクラスター内にある電子数と銀原子の配列が変わる、銀ナノクラスターの構造変換を実現しました。これらのリング状金属酸化物と銀ナノクラスターからなるハイブリッド分子触媒の構造を、単結晶X線構造解析(注5)によって明らかにしました。リング状構造の開口部にある銀ナノクラスターの表面は、配位子(注6)などで保護されておらず、複数の銀原子が露出した銀表面を持ちます。このような露出した銀ナノクラスター表面は、触媒反応における活性点として重要ですが、同時に銀ナノクラスターが分解や構造変化する原因になるため、これまでに開発されてきた材料では安定に保持することは困難でした。しかし、今回合成したハイブリッド分子触媒は、有機溶媒中の紫外可視吸収スペクトル(注7)とX線吸収微細構造法(注8)から、銀ナノクラスター表面が露出した分子構造を固体状態や溶液中で安定に保持していることが分かりました。銀ナノクラスターが環状の金属酸化物で囲まれることで、銀ナノクラスター表面構造が安定に保持されると考えられます。

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図1:露出した銀表面を持つハイブリッド分子触媒の合成と構造
上段は、リング状の金属酸化物の内部空間に30個の銀原子からなる銀ナノクラスターを段階的に合成する概略図であり、銀原子は黒い球で表現されている。本研究で開発した銀ナノクラスターは、銀表面が露出した分子構造を安定に保持することが可能であり、さまざまな有機分子の特定部位を選んで変換する触媒材料に利用可能である。

 この銀ナノクラスターは、従来の銀ナノ粒子触媒(注9)と比べて低い温度、低い水素分圧の穏和な反応条件下で、さまざまな有機分子の還元反応に触媒特性を示しました(図2)。これに対し、過去に研究グループが開発した、表面が金属酸化物に覆われた銀ナノクラスターは触媒特性を示しません。これらの結果は、今回開発したハイブリッド分子触媒が、露出した銀ナノクラスター表面で触媒特性を発揮していることを示します。また、このハイブリッド分子触媒は、通常の銀ナノ粒子触媒とは異なり、有機分子の特定の部分だけを選んで還元できることが分かりました。例えば、図2のようにC≡C結合やハロゲン(Cl、Br、F)などの還元されやすい部分がある場合でも、選択的にニトロ基(NO2)がアミノ基(NH2)に還元されてアニリンが生成します。このハイブリッド分子触媒では、銀ナノクラスターとリング状金属酸化物が協奏的に働くことで、水素分子をプロトンと電子に解離することが可能になり、それによって一般的な銀ナノ粒子とは異なる触媒特性を実現できることを明らかにしました。

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図2:本研究で開発した露出した銀表面を持つハイブリッド分子触媒による触媒効果
本研究で開発した触媒は、水素分子を用いたニトロベンゼンからアニリンへの還元反応において、本研究グループで以前報告した表面が覆われた銀ナノクラスターや、高分子で保護された銀ナノ粒子(Ag/PVP)よりも高い活性を示す。

〈今後の展望〉
 本研究で開発した材料は、優れた安定性と高い化学反応性を両立し、銀ナノクラスターとその周囲の金属酸化物が協奏的に働くことで、水素分子の解離特性や触媒作用などのさまざまな機能が発現します。そのため、資源循環、エネルギー変換、医農薬品や有機デバイスなどの化学品合成、環境浄化に用いられる触媒としての応用に加えて、光機能材料、センサー、分子エレクトロニクスといった幅広い分野への応用が期待されます。今後は、本研究で開発した合成手法を応用して、材料を構成する元素の種類や原子数を制御することで、目的とする機能や応用に即して、多様な構造や電子状態の材料を開発していきます。


発表者

東京大学 大学院工学系研究科
米里 健太郎(特任助教)
屋内 大輝(修士課程)
山口 和也(教授)
鈴木 康介(准教授)

東京大学 大学院総合文化研究科
横川 大輔(准教授)

東京都立大学 大学院理学研究科
山添 誠司(教授)

株式会社リガク X線機器事業部 応用技術センター 単結晶グループ
菊池 貴(研究員)


論文情報

雑誌:Nature Chemistry
題名:Surface-exposed silver nanoclusters inside molecular metal oxide cavities
著者:Kentaro Yonesato, Daiki Yanai, Seiji Yamazoe, Daisuke Yokogawa, Takashi Kikuchi, Kazuya Yamaguchi*, Kosuke Suzuki*
DOI:10.1038/s41557-023-01234-w


研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR18T7、JPMJPR19T9)、JST創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR213M)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(課題番号:20H02749、20H04659)、JSPS研究拠点形成事業、野口研究所、東レ科学振興会等の支援により実施されました。


用語説明

(注1)金属ナノクラスター:
数個から数百個程度の金属原子から構成される、数ナノメートル以下の大きさの化合物。

(注2)リング状の金属酸化物:
原子番号74のタングステン原子が、酸素原子を介して結合した分子状の化合物であり、1ナノメートル径の内部空間を持つ。

(注3)担体:
ナノサイズの微粒子の触媒を支える土台となる物質。

(注4)還元剤:
電子を放出しやすい性質をもつ物質。金属イオンと還元剤を反応させて、金属イオンに電子を与えることで金属原子同士が結合した金属ナノクラスターを合成することができる。

(注5)単結晶X線構造解析:
化合物の単結晶にX線を照射すると、特定の方向に強くX線が散乱される(回折)。X線の回折点を収集、解析することで分子の構造を決定する方法。

(注6)配位子:
化合物の中心にある金属などに配位結合する分子やイオン。一般に、溶液中における金属ナノクラスターの合成では、不安定な金属ナノクラスターの表面に強く結合する塩化物イオン、チオラート、ホスフィンなどを配位子として加えることで、金属ナノクラスターの分解、凝集、構造変化を抑制することができる。

(注7)紫外可視吸収スペクトル:
目的物質が吸収する、近紫外~可視光領域の光の波長と吸収する度合い(吸光度)を示すスペクトル。銀ナノクラスターの紫外可視吸収スペクトルは、銀ナノクラスターの構造や電子状態の違いに敏感に変化するため、構造や電子状態の安定性や変化を評価するために重要である。

(注8)X線吸収微細構造法:
目的の元素に適したエネルギーのX線を照射することで、物質中に含まれている目的の元素の電子状態や、周辺に存在する原子の情報を得る分析手法。共存する元素の影響を受けにくく、また試料の形態を問わずに分析が可能であるため、触媒反応溶液中の銀ナノクラスターの構造や電子状態の分析に強力な手法である。

(注9)銀ナノ粒子触媒:
数ナノメートルから数十ナノメートル程度の大きさの微細な銀の粒子を利用した触媒。通常、銀ナノ粒子は不安定であるため、担体となる金属酸化物に固定することや、配位子やポリマーで表面を保護して安定化することで触媒として利用できる。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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