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最終更新日:2024.03.26

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トピックス 2023.07.21

【研究成果】生体毒分子を選択的に検出するセンサ ――アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見――

2023年7月21日
東京大学大学院総合文化研究科

発表のポイント

  • 二次元半導体を用いることで、生体毒性を示すジメチルホルムアミド分子のセンシング原理を見出しました。
  • 類似のアミド分子には応答せず、ジメチルホルムアミドにのみに応答するセンシング原理を見出しました。
  • ジメチルホルムアミドを含む夾雑溶液に対して、リアルタイムに検出するデバイスへの展開が期待されます。

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本研究で開発した分子センサのイメージ図


発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の桐谷乃輔准教授(研究当時:大阪公立大学、東京大学)、 大阪公立大学大学院工学研究科の藤村紀文教授、池野豪一准教授、福井暁人大学院生(研究当時)、慶應義塾大学の尾上弘晃教授、物質・材料研究機構の長田貴弘グループリーダー、北海道大学(研究当時)の土方優特任准教授らの各グループの共同研究により、生体毒分子であるジメチルホルムアミドの水溶液内における選択的なセンシング原理を開拓しました。

 ジメチルホルムアミド(DMF)分子は、工業面において重要な溶媒として知られ、20億USドルもの市場規模を有します。一方で、生体への毒性や細胞を死滅させる作用を持つことが知られています。DMF分子は、明確な電子をやりとりする性質(酸化還元能)を示さないため、半導体センサなどにより検出することは困難です。特に、水溶液中など、他の物質が混在した夾雑環境下においては、選択的に検出することは困難を極めます。本研究では、二次元半導体上の欠陥サイトがDMF分子と特異な相互作用を示し、溶液中においても選択的にDMF分子を検出するセンサとして利用できる可能性を見出しました。本原理を応用することにより、これまで検出しづらいとされた分子を選択的に、かつリアルタイムに検出するデバイス作製への展開が期待されます。


発表内容

〈研究の背景〉
 分子センサは、環境モニタリングやヘルスケアに関連した化学センサとして注目を集めています。本発表において注目したN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)は、アクリル繊維やウレタン繊維の紡糸、人工皮革、有機合成の溶媒として広く使用されている重要な溶媒の一つです。他にも、工業的に重要な溶媒であり、例えば、医薬・農薬産業におけるペプチドカップリング、セルロースのアセチル化触媒、ブタジエン、アセチレン、エチレン、プロピレン、硫化水素、NO2ガスの吸収剤として使用されています。幅広い用途が示すように、DMFの市場規模は2022年に約20億USドルとなっています。一方、DMFは細胞や人体に有毒な化学物質として知られています。DMFは人体に容易に吸収され、肝臓において強い毒性を持つN-メチルホルムアミドへと代謝されることが知られています。また、細胞毒性が知られ、DMF濃度1v/v%以上で細胞の約半数が死滅(LD50)するとの報告もあります。従って、溶液夾雑下におけるDMF分子のリアルタイム・モニタリングは重要な課題と考えられます。

〈研究の内容〉
 一般に、DMF溶媒は明確な酸化還元活性能を示さないことが報告されています。従って、電気化学的な方法は、溶液環境中のDMF濃度のモニタリングには直接適用できません。これまでに、ナノ材料を用いた溶液内のDMF分子の検出例の報告はありますが、溶液中のDMF分子をリアルタイムでモニタリングするためには、溶液が連続的に循環する環境下において、機械的・化学的な堅牢性が課題となると考えられます。加えて、溶液ベースのセンサとして展開するためには、1v/v%などの高濃度のDMFまで測定できることが望ましいと考えられます。本研究では、水溶液中のDMFを選択的かつリアルタイムでモニタリングするコンセプトを提案しました。

 二次元半導体をチャネル材料として用いた電界効果トランジスタを作製し、それをマイクロ流体デバイス内に組み込み、溶液を連続的に入れ替えて溶液内分子を 検出できるシステムを構築しました(図1)。このシステムを用いることで、DMF分子のリアルタイムモニタリングへの可能性が示唆されました。さらに、本研究で作製した二次元半導体トランジスタは、DMF分子への特異的な応答性を有することも示唆されました。その特異的な相互作用は、二次元半導体であるMoS2面内の酸素置換サイトと、アミド基のプロトンを介した水素結合による配向であると考えられます。そしてこのような配向状態は、MoS2表面に欠陥部位がない場合には得られないことも示唆されました。従って、化学的に組成の崩れた非理想性的な欠陥サイトを持つ表面において、DMF分子の特異なセンシングへとつながっていると考えられます。

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図1:二次元半導体(MoS2)電界効果トランジスタを内部に有するマイクロ流体デバイスの模式図、およびDMF分子とMoS2表面の相互作用の模式図


〈今後の展望〉
 本研究成果は、二次元半導体における欠陥部位を応用することにより、シンプルかつ選択性の高い分子センサ構築に繋がるコンセプトを提案するものです。本コンセプトを応用することで、DMF分子に限らず、酸化還元活性能を持たない他の分子種に対しても、センサの構築が可能になるものと考えています。


発表者

東京大学 大学院総合文化研究科
桐谷 乃輔(准教授)

大阪公立大学 大学院工学研究科
福井 暁人(研究当時:博士課程)
松山 圭吾(博士課程)
池野 豪一(准教授)
平岡 俊亮(研究当時:修士課程)
日浦 恒星(研究当時:修士課程)
竹井 邦晴(教授)
吉村 武(准教授)
藤村 紀文(教授)
桐谷 乃輔(准教授)

慶應義塾大学 大学院理工学研究科
尾上 弘晃(教授)
板井 駿(研究当時:博士課程)

北海道大学 化学反応創成研究拠点 (ICReDD)
土方 優(研究当時:特任准教授)
Pirillo Jenny(研究当時:特任助教)

物質・材料研究機構
長田 貴弘(グループリーダー)


論文情報

雑誌:ACS NANO
題名:Unusual Selective Monitoring of N,N-Dimethylformamide in a Two-Dimensional Material Field-Effect Transistor
著者:Akito Fukui, Keigo Matsuyama, Hiroaki Onoe, Shun Itai, Hidekazu Ikeno, Shunsuke Hiraoka, Kousei Hiura, Yuh Hijikata, Jenny Pirillo, Takahiro Nagata, Kuniharu Takei, Takeshi Yoshimura, Norifumi Fujimura, and Daisuke Kiriya*
DOI:10.1021/acsnano.3c03915


研究助成

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ(課題番号:JPMJPR1663)、創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2125)、次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2139)、JSPS 科研費(課題番号:20H02574)の支援により実施されました。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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