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最終更新日:2024.02.15

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【研究成果】量子コンピュータのノイズ効果を抑制する量子誤り抑制法の原理的性能限界を解明

2023年11月23日
東京大学
電気通信大学
科学技術振興機構(JST)

発表のポイント

  • ノイズのある量子コンピュータへの適用が期待されている量子誤り抑制法の原理的性能限界を明らかにした。
  • 量子誤り抑制法の一般理論を導入することで、従来のケースバイケースの解析では不可能であった普遍的な性能限界の解析に初めて成功した。
  • 量子誤り抑制には量子回路の深さについて指数的な時間コストが必ず必要となることを証明した。本研究の結果は、有用な量子コンピュータの実現を考える上での将来的な指針を与えるものと期待される。

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量子誤り抑制の一般理論とその性能評価


発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の高木隆司准教授、電気通信大学大学院情報理工学研究科の田島裕康助教(兼任:科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員)、Nanyang Technological University SingaporeのMile Gu准教授による研究グループは、量子コンピュータ(注1)におけるノイズ効果を抑制する方法として注目されている「量子誤り抑制法」(注2)に課される普遍的な性能限界を、量子力学の原理から明らかにしました。

 量子技術の実験的発展が目覚ましい今日、ノイズがある小・中規模の量子コンピュータの計算性能を理論的に特徴づけることは大きな課題となっています。本研究では、どのような量子誤り抑制法に対しても普遍的に必要となる時間コストを導出し、特に量子回路の深さ(注3)に対して時間コストが指数的に増大することが原理的に避けられないことを初めて証明しました。この結果は今後の量子技術の発展の方向性の指針を与えると同時に、本研究によって導入された、ノイズのある量子系の操作的性能を情報理論の側面から明らかにする研究アプローチの将来的な発展が期待されます。

 本研究成果は、2023年11月22日(米国東部時間)に米国科学誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。


発表内容

〈研究の背景〉
 近年の量子技術の発達により小・中規模の量子コンピュータが実現されてきており、それらの計算性能を明らかにすることは現在の量子情報科学の最も重要な問題の一つとなっています。小・中規模の量子コンピュータの性能に関する大きな懸念要因として、ノイズ効果があります。ノイズは熱による振動や実験的な精度など様々な要因で発生することから、ノイズの存在下でも計算の精度を担保する方法が必要です。小・中規模量子コンピュータの実装に向けた標準的な方法は量子誤り抑制と呼ばれ、これまで多くの具体的な量子誤り抑制法が提案されてきました。

 以上のことから、小・中規模の量子コンピュータの性能を特徴づける上で、量子誤り抑制の究極的な性能を理解することは不可欠なものとなっています。これには一般の量子誤り抑制の性能に対する系統的な理解が必要ですが、これまでの研究はそれぞれの抑制法に対するケースバイケースの解析にとどまっており、量子誤り抑制の包括的な性質はほとんど知られていませんでした。

〈研究結果〉
 量子誤り抑制法の実現性を決める重要な性能指標は、望みの計算精度を達成するために必要となる時間コストです。これが膨大になると量子誤り抑制を現実的な時間スケールで適用するのは困難になります。本研究では、従来の各論的な解析を特殊例として包括する量子誤り抑制の一般理論を導入することで、一般の量子誤り抑制法に普遍的に必要となる時間コストを導出することに成功しました。具体的には、量子状態識別性(注4)と量子誤り抑制により実現される計算精度を定量的に結びつけることで、目標計算精度を実現するために必要となる量子状態数を評価する情報理論的アプローチを開拓しました。さらに標準的なノイズモデル(図1)に結果を適用することで、量子誤り抑制に必要な時間コストが量子回路の深さに対し指数的に増大することが原理的に避けられないことを初めて証明しました。

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図1:ノイズがある量子回路の時間コストは指数的に増大する。
ここで、U は量子ゲート、ΛとΞはある特定のクラスの量子操作、D はdepolarizing noiseと呼ばれる標準的ノイズモデルを表す。このような一般的なクラスの量子回路に量子誤り抑制を適用すると、どのような誤り抑制法を用いても時間コストが回路の深さLに対し指数的に増大する。

〈今後の展望〉
 本研究結果は、小・中規模量子コンピュータを有用に活用することを目指す上での今後の方向性に一つの指針を示すものになると考えられます。また、本研究により開拓された、ノイズがある量子系の持つ計算性能の原理的限界を情報理論により解き明かすアプローチは、量子情報科学の基礎・応用の両面に多くの重要な知見を将来的にもたらすことが期待されます。

〇関連情報:
本研究結果と同時に発表された関連論文に関するプレスリリース
「量子コンピュータのエラー抑制技術の理論限界を解明 ――最適な量子エラー抑制手法の設計に向けて――」(2023/11/23公開予定)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2023-11-23-001


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系
高木 隆司 准教授

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻
田島 裕康 助教
兼:JSTさきがけ さきがけ研究員

Nanyang Technological University Singapore, School of Physical and Mathematical Sciences
Mile Gu 准教授

論文情報

雑誌:Physical Review Letters
題名:Universal Sampling Lower Bounds for Quantum Error Mitigation
著者:Ryuji Takagi*, Hiroyasu Tajima, and Mile Gu
DOI:10.1103/PhysRevLett.131.210602


研究助成

科研費「若手研究 (課題番号:JP19K14610(田島))」、科研費「学術変革A「極限宇宙」 (課題番号:JP22H05250(田島))」、JST「さきがけ (課題番号:JPMJPR2014(田島))」、JST「ムーンショット型研究開発事業 (課題番号:JPMJMS2061(田島))」


用語説明

(注1)量子コンピュータ:量子力学の原理を用いて計算処理を実行するデバイスで、化学や機械学習等の分野への応用が期待されている。

(注2)量子誤り抑制法:ノイズの存在下において量子計算の計算精度を保証する方法として量子誤り訂正法が提唱されているが、それに必要な量子誤り訂正符号を実装するためには大規模で高精度な量子コンピュータが必要となる。量子誤り抑制法は、量子状態を符号化する代わりに量子計算を多数回繰り返した後古典的な情報処理を加えることによって計算精度を高める方法で、近年実現されてきている小・中規模の量子コンピュータに適用可能な方法として注目を集めている。

(注3)量子回路の深さ:量子計算は量子ゲートと呼ばれる演算を量子状態に次々と適用させていくことで実行される。どのように量子ゲートを適用するかを表すものは量子回路と呼ばれ、それらの量子ゲートを適用するのに必要な総時間ステップ数は量子回路の深さと呼ばれる。

(注4)量子状態識別性:2つの量子状態を測定により識別しようとする時、それらがどれだけの精度で原理的に識別可能かを表す指標。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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