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最終更新日:2024.02.15

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トピックス 2023.11.28

【研究成果】反強磁性状態における空間変調した超伝導状態の存在を予言――新たな超伝導の観測に向けて――

2023年11月28日
東京大学
東京電機大学
理化学研究所

発表のポイント

  • 有機分子からなる電気伝導体の理論モデルを用い、特徴的な磁気状態下で、超伝導部分と金属部分が周期的に空間変調した特殊な超伝導状態(FFLO状態)が現れることを発見しました。
  • これまで知られてきた強磁場中で安定化するFFLO状態とは異なり、外部磁場を必要としない新しい機構による実現を示しました。
  • 本成果は固体物理における磁性と超伝導の研究だけでなく、様々な物理分野で発現するFFLO状態の類似現象の理解を促進することが期待されます。

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の角田峻太郎助教は、東京電機大学の中惇准教授、理化学研究所の妹尾仁嗣専任研究員との共同研究で、κ-(BEDT-TTF)2X (注1)において反強磁性秩序(注2)と超伝導が共存することによって、Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)状態(注3)が実現しうることを明らかにしました。

 先行研究で提案されてきたFFLO状態は外部から磁場を印加した状況で実現するものがほとんどでしたが、その場合には磁場によって超伝導状態自体が破壊されたり、物質中に侵入する渦糸(注4)がFFLO状態の観測を困難にすることが課題でした。本研究ではエネルギーバンドのスピン分裂(注5)を伴う特別なタイプの反強磁性体を用いることで、磁場を印加せずにFFLO状態を安定化する方法を示しました。これは渦糸フリーな状況でのFFLO状態の観測を可能にし、またFFLO超伝導の新たな物質基盤を提示するものとなっています。

 この研究成果によって今後、様々な物理分野で注目されるFFLO超伝導の研究がさらなる拡がりを見せ、多岐にわたる物理現象の基盤となることが期待されます。


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κ-(BEDT-TTF)2X におけるFFLO状態の模式図


発表内容

 超伝導は金属を冷却することで電気抵抗がゼロになるという、100年以上前に発見された量子現象です。超伝導物質は外部磁場を印加することで様々な興味深い性質を示すことが知られています。その一つがFFLO状態の発現であり、これは超伝導部分と金属部分が空間的に規則的に変調した状態です。FFLO状態は1960年代に理論的に提案された状態で、固体物理のみならず、冷却フェルミ原子気体の超流動・高エネルギー物理学におけるカラー超伝導(注6)の文脈でも興味を持たれています。提案から60年近くの間、様々な超伝導物質において強磁場中でのFFLO状態の実験的観測が試みられてきました。しかし、磁場中では超伝導体に渦糸が侵入することでFFLO状態の観測が困難になることが知られており、その電子状態の明瞭な描像は未だ明らかになっていません。すなわち、「FFLO状態の生成には磁場が必要だが、磁場それ自身がFFLO状態の観測を阻害する」という状況でした。

 超伝導は医療機器のMRIやリニアモーターカーなどに超伝導電磁石として応用されていますが、現在実用化されている超伝導体はFFLO状態を示しません。FFLO状態は磁場に強い超伝導状態であるため、これが実用化されればより強い磁力に耐えうる電磁石など、応用の幅が広がる可能性があります。しかし、上記のように磁場下では観測が難しいという事情があり、まずはFFLO状態そのものを理解するためにより容易に観測ができるセットアップを提示することが重要です。

 本研究では、有機分子が構成要素である化合物群κ-(BEDT-TTF)2X が示す反強磁性状態(図1)に注目し、外部磁場を印加せずにFFLO超伝導状態を実現できることを、理論モデルに基づく数値解析によって明らかにしました。この反強磁性状態はエネルギーバンド構造に異方的なスピン分裂[図2(a)]を伴うという特異な性質を示しますが、これによってクーパー対(注3参照)を形成するアップスピンとダウンスピンの電子が持つ運動量の大きさが等価でなくなり、FFLO状態が安定化されます。この安定化の機構は従来の磁場誘起の等方的なスピン分裂[図2(b)]によって生じるFFLO状態のそれと類似していますが、反強磁性状態の場合はゼロ磁場の渦糸フリーの状況でFFLO状態を実現・観測することができるという大きな利点があります。この異方的スピン分裂を示す反強磁性状態は近年「磁気八極子」または「交代磁性」とも呼ばれ、特にスピントロニクス分野で精力的な研究が進められています。現在ではκ-(BEDT-TTF)2X だけでなく酸化物やカルコゲナイドなどの無機結晶も含めた様々な候補物質が提案されており、本研究はこれらの物質群がFFLO超伝導研究においても重要な物質となりうることを示しています。

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図1:有機化合物群κ-(BEDT-TTF)2X の伝導面におけるBEDT-TTF分子の模式的な配列図
オレンジの太実線で結ばれた2つのBEDT-TTF分子がそれぞれダイマー(二量体)を形成しており、反強磁性状態ではダイマーの向きに応じてアップ・ダウンのスピンを持つ電子が局在します。

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図2:運動量空間(kx , ky )におけるエネルギー(E )バンド構造の模式図
(a)κ-(BEDT-TTF)2X の反強磁性状態ではアップスピン電子(赤実線)とダウンスピン電子(青破線)のバンドが異方的な分裂を起こしますが、(b)外部磁場中では等方的なスピン分裂が生じます。

 本研究成果は、FFLO状態の新たな発現機構を提示するものであり、異方的スピン分裂を有する様々な候補物質に適用可能です。また、FFLO状態自体が超伝導として新奇な性質を持ち 、物理学の幅広い分野で興味を持たれていることから、本研究をきっかけとして理論・実験の両面においてさらなる研究が促進されると期待できます。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科
角田 峻太郎 助教

東京電機大学 理工学部
中 惇 准教授

理化学研究所 開拓研究本部および創発物性科学研究センター
妹尾 仁嗣 専任研究員


論文情報

雑誌:Physical Review Research
題名:Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov state induced by antiferromagnetic order in κ-type organic conductors
著者:○Shuntaro Sumita, Makoto Naka, and Hitoshi Seo
DOI:10.1103/PhysRevResearch.5.043171


研究助成

本研究は、科研費 「若手研究(課題番号:23K13056)」、「基盤研究(C)(課題番号:23K03333, 19K03723)」、「基盤研究(B)(課題番号:23H01129, 20H04463)」、「学術変革領域研究(A)(課題番号:23H04047)」、および東北大学金属材料研究所における共同研究(課題番号:202112-RDKGE-0019, 202212-RDKGE-0062)の支援により実施されました。


用語説明

(注1)κ-(BEDT-TTF)2X
ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン(BEDT-TTF)という有機分子と一価の陰イオンX によって構成される代表的な有機化合物結晶の総称。

(注2)反強磁性秩序:
物質内部の原子が持つ電子のスピンが互いに反対向きに整列する状態。同じ向きに整列すると強磁性秩序(=磁石)となりますが、反強磁性状態での機能を活用する動きがスピントロニクス分野で活発となっています。

(注3)Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)状態:
1964年にFuldeとFerrell、LarkinとOvchinnikovがそれぞれ独立に理論提案を行った特殊な超伝導状態。超伝導はアップスピンとダウンスピンの2つの電子が対(クーパー対)を形成・凝縮することによって起きると考えられています。通常の超伝導状態では重心運動量ゼロのクーパー対が形成されますが、FFLO状態では有限の(ゼロでない)重心運動量を持つクーパー対が形成されます。

(注4)渦糸:
超伝導体に磁束が侵入することによって生じる、局所的に超伝導が破壊された欠陥。外部磁場中の超伝導体では、渦糸が周期的に並ぶ「格子」状態を形成することが知られています。渦糸格子も規則的な空間変調を持つため、FFLO状態との区別が難しいことが分かっています。

(注5)エネルギーバンドのスピン分裂:
波として固体中を伝搬する電子が持つ、波数(波長の逆数)に依存して変化するエネルギーをエネルギーバンドといいます。多くの場合、アップスピン電子のエネルギーバンドとダウンスピン電子のエネルギーバンドは等価で重なり(縮退)を持ちますが、本研究で考える反強磁性状態のような特別な状況ではこれらが等価でなくなり、重なっていたエネルギーバンドに分裂が生じます。

(注6)カラー超伝導:
クォークのクーパー対が凝縮することによって発現する超伝導。中性子星のような高密度の天体の中心部で実現している可能性が指摘されています。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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