HOME総合情報ニューストピックス

最終更新日:2024.02.15

ニュース

トピックス 2024.01.12

【研究成果】天の川の「あやつり糸」の断層撮像に初めて成功――三次元磁場構造の初観測で天の川銀河の構造形成の謎に迫る――

2024年1月12日
東京大学
広島大学
香川大学

発表のポイント

  • これまで全く知られていなかった天の川銀河の渦巻き腕内部の磁場構造を、三次元的に測定することに初めて成功しました。
  • 予想に反し、天の川に沿った面から大きく傾いた滑らかな磁場構造が、折り重なるように存在することを初めて明らかにしました。
  • 今回確立した磁場構造の断層撮像技術を用いて、今後天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスが集積する過程を、観測的に明らかに出来ると期待されます。

img-20240112-pr-sobun-01w.png

天の川銀河のいて座渦巻き腕内部の磁場構造を初めて三次元的に解明


発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の土井靖生助教と、広島大学宇宙科学センターの川端弘治教授、香川大学教育学部の松村雅文教授らによる研究グループは、天の川銀河の渦巻き腕(注1)のひとつである「いて座銀河腕」の内部の磁場構造を三次元的に明らかにすることに世界で初めて成功しました。

 本研究では、いて座の天の川方向の184個の星を広島大学かなた望遠鏡(注2)を用いて精密に観測しました。その結果をヨーロッパ宇宙機関が打ち上げたGaia(ガイア)衛星(注3)の測定による各星までの正確な距離と組み合わせることで、「いて座銀河腕」の内部の磁場が、星までの距離に応じて天の川の方向から大きく傾いて折り重なるように分布することを初めて明らかにしました(図1、図2)。それぞれの距離で、磁場は乱れることなく非常に滑らかに分布することが分かりました。

 研究グループは、天の川方向の磁場を奥行き方向に切り分けて検出する技術を初めて確立することで、これまで全く知られていなかった磁場の三次元分布を明らかにしました。今後この手法により、天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスの集積過程について、観測的に明らかに出来ると期待されます。


20240112-pr-sobun-01-01.png

図1:いて座銀河腕方向の星間磁場の向きと地球からの距離毎の分布

左図:星空画像中の白線が一つ一つの星の示す星間磁場の向き。
右図:左図の結果を各星の距離毎に分解し、それぞれの距離の磁場分布を取り出すことに成功しました。


20240112-pr-sobun-01-02.png

図2:地球からの距離毎の磁場の三次元分布


発表内容

 宇宙空間には、地球の磁場の約10万分の1程度の強度のごく弱い磁場(星間磁場)が存在します。宇宙空間に存在するガス(星間ガス)は、星間磁場の磁力線に沿って集まる傾向があります。この現象によって、星間ガスの塊、いわゆる星間雲(せいかんうん)が生まれます。

 星間雲は、まるで磁力線に串刺しにされるように生まれ、その形状もこれらの磁力線の影響を受けます。そして星間雲の中では、新しい星が生み出されます。つまり、星間磁場は、星間雲の形状だけでなく、それらの中で新しい星が生まれるプロセスをも操作する「あやつり糸」と捉えることが出来ます。

 星間雲が形成される際に集まる星間ガスは、磁力線に沿って集まりながら、同時に磁力線を引っ張ることで、磁力線の分布に影響を与えます。したがって、星間磁場の磁力線の配置を理解することは、新しい星を生み出すために不可欠な星間ガスの集積の過程やメカニズムを解明する上で貴重な情報源となります。

 天の川の中ではたくさんの星が活発に生み出されていますが、その内部で星間磁場がどの様に分布しているのかはこれまで分かっていませんでした。これまでの技術では、星間磁場の様子を視線方向に重なった平均値としてしか捉えることが出来なかったためです。このため天の川の磁場は、天の川に沿った方向にほぼ揃っていると考えられていました(図3)。


20240112-pr-sobun-01-03.png

図3:ヨーロッパ宇宙機関が2009年に打ち上げたPlanck(プランク)衛星の観測した、天の川の星間雲分布(カラー画像)と磁場構造(白線)。

これまでは視線上に重なった天の川の磁場の平均値を観測しており、図に示す様に、中央を左右に伸びる天の川の方向に揃った磁場構造が知られていました。今回、図中黄色枠の領域を詳しく観測することで、左右方向に揃って一様に分布すると考えられていた磁場構造が、実際には距離毎に大きく傾いた複数の構造の重なりであることを初めて明らかにしました。


 天の川内部の磁場構造を明らかにするために、研究グループは天の川銀河の渦巻き腕構造のひとつである「いて座銀河腕」に着目し、この銀河腕を見通す様に観測を行いました。観測には広島大学かなた望遠鏡に搭載した観測装置「HONIR」(オニール)を用いました。この装置は広い領域の磁場構造を捉えるのに最適化された装置です。

 星からの光は、地球に届くまでの間に星間雲を通過する際に、磁場の向きに垂直な方向の光の振動が抑制されることにより、磁場の向きに沿った光の振動が他の方向よりも大きな状態となります。これを「偏光」と呼びます(図4)。HONIRを用いてこの偏光を観測することで、星と地球の間にある磁場の様子を知ることが出来ます。しかし途中に複数の星間雲が存在した場合、それぞれがどの様な磁場構造を持っているかがこれまでは分かりませんでした。

 研究グループはヨーロッパ宇宙機関の打ち上げたGaia衛星で測定した星までの正確な距離を元に、様々な距離の星々の偏光観測データを組み合わせることで、途中に存在する複数の星間ガス中の磁場を正確に取り出す手法を開発しました(図4)。この手法を適用することで、天の川内部の磁場が、距離毎に揃って天の川の向きから大きく傾いた磁場が、幾重にも折り重なって存在することが初めて明らかになりました。これは天の川の中でどの様に星間ガスが集積し、星を生み出すに至るのかを知るための非常に貴重な資料となります。

 今後は、滑らかな磁場構造の広がりについて詳しく調査する必要があります。様々な渦巻き銀河について、その渦巻き腕の内部で等間隔に星形成が進んでいる様子が観測されており、磁場構造との関連が強く疑われていますが、磁場構造が不明なために確認出来ていません。今後は観測範囲を広げて天の川の渦巻き腕内部の磁場構造を大局的に明らかにし、天の川中の活発な星形成を引き起こすガスの集積やその履歴について観測的に明らかにしたいと考えています。


20240112-pr-sobun-01-04.png

図4:様々な距離の星からの光の観測による、視線上に折り重なった磁場構造の測定。

星からの光は一般に縦横全ての方向をまんべんなく含む横波ですが、これが磁場を伴った星間雲を通過する際に、特定の方向に偏った横波(「偏光」)となります。複数の磁場層を横切るたびに、「偏光」の様子は少しずつ変わって行きます。距離の異なる複数の星の「偏光」を望遠鏡(右上:観測所全体像、右下:望遠鏡)で観測し、それぞれ異なる数の星間雲を横切った影響を分離して取り除くことで、一つ一つの星間雲の磁場構造を取り出すことが出来ます。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科
土井 靖生 助教

広島大学 宇宙科学センター
川端 弘治 教授
中村 謙吾 研究当時:修士課程

香川大学 教育学部
松村 雅文 教授

千葉工業大学 惑星探査研究センター
秋田谷 洋 上席研究員

サンパウロ大学 天文学・地球物理・大気化学研究所
Prof. Antonio Mario Magalhães
Dr. Reinaldo Santos-Lima

ブラジル国立宇宙研究所 宇宙物理学研究室
Dr. Claudia Vilega Rodrigues

ラドバウド大学 数学・宇宙物理学・素粒子物理学研究所
Prof. Marijke Haverkorn


論文情報

雑誌:The Astrophysical Journal
題名:Tomographic Imaging of the Sagittarius Spiral Arm's Magnetic Field Structure
著者:Yasuo Doi*, Kengo Nakamura, Koji S. Kawabata, Masafumi Matsumura, Hiroshi Akitaya, Simon Coudé, Claudia V. Rodrigues, Jungmi Kwon, Motohide Tamura, Mehrnoosh Tahani, Antonio Mario Magalhães, Reinaldo Santos-Lima, Yenifer Angarita, José Versteeg, Marijke Haverkorn, Tetsuo Hasegawa, Sarah Sadavoy, Doris Arzoumanian, Pierre Bastien
DOI:10.3847/1538-4357/ad0fe2


研究助成

本研究は、科研費「「あかり」赤外線全天サーベイデータを用いた宇宙星形成史の統一的解明(課題番号:25247016)」、「「あかり」赤外線全天マップによるサブパーセクスケールの空間構造と星形成活動の解明(課題番号:18H01250)」、「全天可視偏光サーベイで解き明かす銀河系構造と宇宙突発現象のメカニズム(課題番号:18H03720)」、「宇宙ビュアーMitakaを用いた天文教育の構築と小中学校の理科授業での展開(課題番号:20K03276)」、「星形成領域の星間直線偏光三次元空間マッピングによる塵粒子特性・磁場構造の解明(課題番号:20K04013)」、2023年度国立天文台大学支援経費「広島大学かなた望遠鏡による多波長広視野偏光観測手法の確立と銀河系内星間磁場の3次元構造の解明」の支援により実施されました。


用語説明

(注1)天の川銀河の渦巻き腕
天の川銀河は全体がゆっくり回転しており、回転する方向に巻き込まれる様な渦巻き構造をしていると考えられています(「渦巻銀河」と呼ばれます)。渦巻きの濃く見える部分を「渦巻き腕」と呼びます。渦巻き腕にはガスや塵が多く集まっており、この内部で盛んに新しい星が生まれています。

(注2)かなた望遠鏡
広島大学東広島天文台の所有する口径1.5mの光学望遠鏡です。可視光・赤外線の偏光観測を広い視野で行うことに特化した観測装置「HONIR」(広島大可視赤外線同時撮像装置)を用いて、星からの光が磁場の影響を受けて生ずる「偏光」を多くの星について観測しました。

(注3)Gaia衛星
ヨーロッパ宇宙機関により2013年に打ち上げられ、天の川銀河内外の5億個以上の星の正確な位置と距離を測定しています。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

前のページへ戻る

総合情報