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最終更新日:2024.03.26

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トピックス 2024.03.04

【研究成果】奄美群島喜界島の地下水は何と5種類――同位体による地下水動態の解明――

2024年3月4日
東京大学大気海洋研究所
東京大学大学院総合文化研究科

発表のポイント

  • 天然の放射性炭素を含む複数の同位体を用いて、奄美群島喜界島における地下水の起源について解析を行いました。
  • その結果、喜界島の地下水水脈が5つのグループに分けられることを明らかにしました。
  • 本研究の成果は太平洋の熱帯域など小さな島々での持続的な地下水利用に取り組む上で重要であり、放射性炭素を利用することで、これまで解明されていなかった地下水の動態について重要な知見を与えることができる可能性が示されました。

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喜界島の航空写真

発表概要

 大河川が存在しない島々では、地下水は極めて重要な水資源です。離島地域は特に気候変動に対して脆弱であるとされており、温暖化が進行する現在、地下水の季節的および空間的な動態を探ることが重要です。東京大学大気海洋研究所の横山教授、東京大学教養学部の辻野愛奈氏(研究当時)らの研究グループは、奄美群島に属する喜界島の15地点から採水した地下水サンプルの様々な化学分析(炭素14:放射性炭素・14C(注1)、水素・酸素安定同位体、および硬度)をほぼ毎月、約1年間行いました。その結果、島の地下水の流れを明らかにし、島を一周するのに車で1時間かかるかどうかというサイズの喜界島の地下水が、実は5つのグループに分かれることを初めて明らかにしました。特に炭素14が地下水の動態を探るために非常に有効なトレーサーであることが明らかになりました。本研究の成果は、喜界島のみならず、太平洋の熱帯域など小さな島々での持続的な地下水利用に取り組む上で重要であり、炭素14を利用することで、これまで解明されていなかった地下水の動態について重要な知見を与える可能性を提示しました。


発表内容

 地下水は世界最大の淡水資源であり、特に大河川のない小さな島々にとって重要です。これら離島の地下水資源は過剰な水利用、農業や生活排水による汚染などの影響を受けやすく、特に太平洋低緯度域のサンゴ礁でできた島々などでは大きな課題に直面しています。地下水の空間的および季節的な動態を理解するために、様々な手法が用いられてきましたが、島嶼地域での地下水動態には多くの不確定性が付随していました。そこで本研究では、離島における地下水動態を明らかにするために、これまで分析が困難で研究がほとんど行われてこなかった炭素14(14C)を含めた複数同位体分析法によって、より精度の高い動態解明を行う手法の確立を目指し、離島での淡水確保という重要な課題を解決するための手法の検討を行いました。

 本研究では、鹿児島県奄美群島にある喜界島(図1)を調査しました。喜界島は隆起サンゴ礁でできた面積56.9km2の小さな島であり、地質的にも比較的単一である点から、地下水の動態を探る各トレーサーの有効性を検討するには理想的な場所です。2022年の1月から約1年間、島の15地点における湧水(図1)、コイン給水式井戸(図1)の地下水、地下ダム(注2)の水を毎月採水し、14C分析、安定同位体(δ18O、δD)分析、そして硬度の解析を行いました。この研究の14Cの結果によると、降水量にはかなりの季節的変化がありながらも、空間的な差異が季節変動よりも大きかったことが示されました(図2)。特に地下ダム付近において、降雨量の影響が小さくなっており、14C値が平均化され大規模な地下水貯留層が存在する可能性が示唆されました。解析結果と地形・地質学的特徴を考慮すると喜界島の地下水の流れは5つのグループに分類され、空間的な地下水の動態が明らかになりました(図3)。この分類により、各グループの水源、滞留時間、および水の動きを推定することができました。この研究は、複数同位体分析(放射性炭素、酸素、水素)および硬度を組み合わせた分析が地下水の動態を解明する強力なツールであることを示しました。特に14Cは高い感度で地下水の移動を感知し、地下水システムに影響を与える多様な炭素源(滞留時間や地下水中の炭酸塩の溶解など)をより深く理解することに役立ちました。対照的に、この比較的小さく低平な島では、その他の分析項目からはこのような特徴は示されませんでした。本研究の成果は「Science of The Total Environment」誌に掲載されました。



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図1:研究対象地となった喜界島
喜界島の隆起サンゴ礁を主体とした海岸地形写真(左)と、島に点在するコイン給水式井戸(中)と、花良治付近の湧水地点(右)

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図2:2022年1月から9月までの各採水地点の季節変動
左軸の折れ線グラフは炭素14濃度値(Δ14C)を示す。左軸の棒グラフは喜界島の月降水量を示す。

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図3:地下水中の炭素14濃度値(Δ14C[‰])と硬度分析の結果に基づいた5つのグループ(各色の網掛け表記)
2022年1月から9月までの炭素14濃度平均Δ14C値±誤差:1標準偏差、図中の数値)と硬度分析の結果に基づくづいた5つのグループ(各色の網掛け表記)。紺色の線は地下ダムの場所を表し、百の台(星印)は島の最高地点を表す。矢印は地下水の流れを示し、それぞれの色は異なる水源を表している。

 本研究は、気候変動に対して脆弱な世界の離島の地下水の動態を解明し、地下水の持続的利用を可能とする手法について重要な知見を提供しました。特に小さな離島でも地下水系が複雑であることが明らかになりました。本研究で提案された複数同位体分析(特に14Cを組み合わせた)手法が同じような島々でも活かされ、安定的な地下水資源の確保に資する情報を提供できることを明らかにしました。また、今後気候変動やモンスーンの変動などとの関連性についてもさらに探っていくことが期待されます。


発表者・研究者等情報

東京大学
横山 祐典
大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 系長・教授
大学院総合文化研究科 附属国際環境学教育機構 兼務教授
大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 兼務教授
辻野 愛奈
大学院総合文化研究科・教養学部 研究当時:学部生
現:オックスフォード大学 修士課程
平林 頌子
大気海洋研究所 附属国際・地域連携研究センター 講師
宮入 陽介
大気海洋研究所 附属共同利用・共同研究推進センター 特任助教
宮島 利宏
大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 助教

論文情報

雑誌:Science of The Total Environment
題名:Groundwater dynamics on small carbonate islands: Insights from radiocarbon and stable isotopes in Kikai Island, Southwest Japan
著者:Mana Tsujino*, Shoko Hirabayashi, Yosuke Miyairi, Tugeru Ijichi, Toshiro Miyajima, Yusuke Yokoyama*
DOI:10.1016/j.scitotenv.2024.171049


研究助成

本研究は、科研費「人為的風化促進の長期影響評価の為の先端宇宙線生成核種による地球表層環境変動研究(課題番号:20H00193,)」、「沿岸浅海域の地理学研究:浅海底地形学の構築および海底景観の可視化と啓発(課題番号:21H04379)」「ヒプシサーマル:完新世の気温復元不一致問題に挑む(課題番号:23KK0013)」、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)グラント番号:JPMJCR23J6の支援により実施されました。


用語説明

(注1)炭素14(14C):単に放射性炭素とも呼ばれることもある炭素の同位体(12C,13C,14C)のうちの1つ。14Cの半減期を利用して年代測定を行うことができる。

(注2)地下ダム:地中に水を通さない壁を作り、地下水を貯留するシステム。貯留された水を汲み上げ、農業用水などとして使われる。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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