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最終更新日:2024.05.14

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トピックス 2024.05.09

【研究成果】AIが解き明かす、動物の協力行動の新たな可能性 ~捕食者の協調的な狩りは単純なルールでも成り立つ~

2024年5月9日
名古屋大学
東京大学

本研究のポイント

  • 人工知能(AI)技術を活用して、生物の集団における協調的な狩り注1)が必ずしも高度な認知能力を必要としないことを実証
  • 従来、複雑な社会的行動と考えられていた協調的な狩りが、より広い生物種において観察可能であることを示唆
  • 将来的に協調的な人工知能エージェントの開発につながることを期待

研究概要

 名古屋大学大学院情報学研究科の筒井 和詩 特任助教(現:東京大学大学院総合文化研究科 助教)、武田 一哉 教授、藤井 慶輔 准教授、同大大学院理学研究科の田中 良弥 助教らの研究グループは、人工知能技術を用いて、これまで高度な認知能力が不可欠だと考えられてきた生物の集団における協調的な狩りが単純な仕組みによって出現しうることを実証しました。

 本研究の結果は、協調的な狩りがどのような動物群で生じるかを再評価することにつながり、より広い生物種において協調的な狩りが進化する可能性を示唆しています。
 今後、自然界で生物が見せる協力行動への理解の深化、さらには協調的な人工知能エージェントの開発などにつながることが期待されます。

 本研究成果は、2024年5月7日付国際科学雑誌「eLife」に掲載されました。


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研究背景と内容

 協調的な狩り(集団での狩りの際に、捕食者たちが獲物に対して、補完的な異なる行動をすること)は、一般的に複雑な社会的行動をとる特定の哺乳類(チンパンジーやライオンなど)で観察されます。そのため、協調的な狩りの成立には「心の理論」のような高度な認知能力が必要だろうと長く考えられてきました。ところが近年、他の生物種(爬虫類や魚類など)でも協調的な狩りのような行動が観察されたという報告が相次いでおり、協調的な狩りには必ずしも高度な認知能力は必要ないのでないか、と指摘する研究者も出てきています。しかしながら、動物の行動観察のみから、その認知・意思決定過程について言及することは極めて難しく、議論が決着しない状況が続いていました。

 そこで本研究では「協調的な狩りに高度な認知能力は必要なのか」という生物学・生態学の問いに対して、情報学的にアプローチすることを試みました(図1)。具体的には、深層強化学習注2)に基づく複数の人工知能エージェントが、周囲との相互作用の中でどのような集団行動を学習するのかを様々な条件で検証し、「単独での捕獲が困難である」と「捕食者間で報酬(獲物)が共有される」という二つの要因が組み合わさることで、協調的な狩りの獲得が促進されることを見出しました(図2)。さらに、人工知能エージェントの内部表現の可視化や、ルールベースのモデル化による行動の再現などを通して、協調的な狩りが比較的単純な仕組みによって実現しうることを示しました。

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成果の意義

 本研究は、これまで高度な認知能力が不可欠だと考えられてきた生物の集団における協調的な狩りが、単純な仕組みによって出現しうることを、人工知能シミュレーションを駆使して実証しました。この結果は、協調的な狩りがどのような動物群で生じるかを再評価することにつながり、より広い生物種において協調的な狩りが進化する可能性を示唆しています。例えば、本研究の知見を参考にフィールドワークに出かけることで、これまで知られていなかった生物種の協調的な狩りの観察につながるかもしれません。

 今後、研究を進展させることで、自然界で生物が見せる協力行動やその進化的起源に対する理解の深化、さらには協調的な人工知能エージェントの開発などにつながることが期待されます。

 本研究は、2020年度から始まった科学技術振興機構さきがけ「信頼されるAIの基盤技術」、2021年度から始まった科研費学術変革領域(A)「サイバー・フィジカル空間を融合した階層的生物ナビゲーション」、2023年度から始まった文部科学省研究大学強化促進事業「名古屋大学高等研究院 若手新分野創成研究ユニット」などの支援のもとで行われたものです。


用語説明

注1)協調的な狩り:
生物の集団での狩り(Cooperative hunting)は、その組織化の程度によっていくつかのレベルに分類される。本研究における「協調的な狩り」は、多くの文献でその最高位に位置付けられているCollaboration(あるいは Collaborative hunting)を指す言葉として用いている。

注2)深層強化学習:
人工知能が試行錯誤を通して自律的に学ぶことを目的とした機械学習手法である「強化学習」と、生物の学習メカニズムを模倣した多層ニューラルネットワークを用いた機械学習手法である「深層学習」を組み合わせた技術。


論文情報

雑誌名:eLife
論文タイトル:Collaborative hunting in artificial agents with deep reinforcement learning
著者:Kazushi Tsutsui(旧:名古屋大学、現:東京大学), Ryoya Tanaka(名古屋大学), Kazuya Takeda(名古屋大学), Keisuke Fujii(名古屋大学)
DOI:10.7554/eLife.85694
URL:https://elifesciences.org/articles/85694


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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